NATOが日本に連絡事務所検討 インド太平洋地域に接近する欧州 

中国やロシアなどによる拡張主義に世界の懸念が高まるなか、欧州のインド太平洋地域への接近が顕著になっている。EUは5月13日、スウェーデンでインド太平洋諸国との閣僚級会合を開催し、政治経済両面における協力を深めていくことで一致した。

近年、欧州諸国の間でも中国への懸念が強まっており、同会合では経済で中国に過度に依存しないよう、戦略的に重要な物資のサプライチェーン強化を双方で目指すことが強調された。そして、中国との完全な経済デカップリングは現実的ではないとしつつ、高まる経済安全保障の重要性を考慮し、半導体やAI、宇宙技術などの分野で対中規制を敷いていく可能性を示唆した。

また、EUは安全保障面でもインド太平洋への接近を図っている。EUは現在対中国戦略文書の改正を進めているが、その改定案には従来どおり「1つの中国」政策を支持するとの言及がある一方、初めて台湾情勢について明記され、「台湾有事を巡る緊張が高まっており、それが現実起こらないようEUは関係諸国と連携を強化する」と台湾有事に備える必要性を示した。また、同文書では、「中国による一方的な現状変更政策は、世界経済や国際安全保障に甚大な影響をもたらす」と世界的な被害についても懸念が示され、EUのインド太平洋へ関与する姿勢が明白となった。

しかし、この動きは北大西洋条約機構(NATO)とも連動しているように映る。NATOのストルテンベルグ事務総長は10日、NATOの連絡事務所を東京に開設することを日本政府と協議していると明らかにした。ストルテンベルグ事務総長もEU同様に、中国やロシアの脅威が高まりを見せるなか、NATOとインド太平洋諸国との連携を強化する必要があると強調し、日本を重要なパートナーと位置づけた。

昨年夏、スペイン・マドリードで開催されたNATO首脳会合に、岸田総理は日本の指導者として初めて参加し、日本自身がNATOと協力する必要性を訴えた。また、ウクライナ侵攻という間近に迫る脅威に直面した欧州も、ロシアを西側からだけでなく東側から牽制する意味で日本の地政学的重要性に気づいた。こういった政治的背景がNATO日本事務所設置の議論を加速化させている。

当然ながら、EUとNATOは別組織であり、対照とする範囲が異なる。しかし、こういった事実により、双方ともインド太平洋諸国との協力を急いでいるのだ。

一方、ロシアや中国はこれに強く反発している。ロシア外務省の報道官はNATO日本事務所設置の件に反発し、これは反ロシアや反中国を拡大させるための愚行であり、NATOのアジア太平洋進出はこの地域における軍事的対立を増大させるだけだと非難し、中国も日本の冷静な対応を望むとしつつ、アジア太平洋地域はNATOの地理的範囲ではなく、アジア太平洋版NATOの創設は必要ないと反発した。

EUが台湾有事で関与することを文書に盛り込んだり、NATOが日本に事務所を設置したりすることは、中国にとっては最も避けたいことだ。

今日、習政権としては台湾や米国、日本との対立が深まることは避けられない事実として受け止めているだろうが、そこに欧州が絡むシナリオは避けたいはずだ。最近もフランスのマクロン大統領やドイツのショルツ首相など欧州の要人が相次いで中国を訪問し、習政権はそれを強く歓迎したが、そこには米国と欧州、インド太平洋と欧州を切り離したい思いがある。マクロン大統領の台湾発言が欧米陣営で物議を醸し出したが、それこそが習政権の狙いだ。

今後も中国がロシアを挟み撃ちにする日米や欧州の動きは続くが、G7サミットにインドや韓国が参加し、それにクアッドの結束も加速化し、自由主義陣営と権威主義陣営との対立はいっそう激しくなるだろう。


◆治安太郎(ちあん・たろう) 国際情勢専門家。各国の政治や経済、社会事情に詳しい。各国の防衛、治安当局者と強いパイプを持ち、日々情報交換や情報共有を行い、対外発信として執筆活動を行う。

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