「グローバルサウス」めぐり覇権争い激しく 「自由主義」VS「専制主義」…それぞれの陣営が探る関係強化

最近、グローバルサウスという言葉がメディアで頻繁に聞かれる。グローバルサウスとは途上国や新興国の総称で、要はアジアやアフリカ、中南米の途上国・新興国がそれに属する。

3月のウクライナ電撃訪問の直前、岸田総理はインドを訪問し、インドと政治経済的な連携を強化していくことで一致したが、モディ首相はインドがグローバルサウスの盟主になることを目指しているのだ。岸田首相は5月のG7広島サミットにもモディ首相を招待しており、ここからはG7とグローバルサウスの結束を強化するだけでなく、日本独自でグローバルサウスとの関係を強化したいという思いが感じられる。

岸田首相はGWにもエジプト、ガーナ、ケニア、モザンビークを訪問する予定となっている。ここでは、このグローバルサウスについて今日重要なポイントを2つ述べたい。

まず、米中対立、もっと広く言えば自由主義陣営と専制主義陣営(中国やロシア)の間で、グローバルサウスを巡る覇権争いが激しくなっている。中国は長年、巨大経済圏構想「一帯一路」によって途上国への経済支援を強化し、今日アジアやアフリカでは中国の存在感が高まっている。

一昨年夏に米軍がアフガニスタンから撤退したが、中国はその空いた真空状態を埋めるように、アフガンスタンでの経済的な影響力を強めようとしている。ウクライナ戦争を展開するロシアも近年、シリア内戦など中東でのプレゼンスを示し、マリやブルキナファソ、中東アフリカやモザンビークなどアフリカでは露民間軍事会社ワグネルが存在感を強めている。

一方、米国など自由主義陣営も最近、それに懸念を強く抱くようになり、途上国へのあらゆる支援を強化する方針を打ち出しており、正にグローバルサウスを巡る覇権争いが激しくなっている。

なお、それによって「グローバルサウスはどちらの陣営に付くのか」という疑問が生じるが、その疑問は正しくない。メディア報道では、グローバルサウスが「途上国・新興国グループ」、「米中とはまた違う陣営」のように報じられることがあるが、グローバルサウスは決して1つの塊ではなく、グローバルサウスの中は極めて複雑でかつ多様な構造をしている。それがもう1つのポイントである。

たとえば、近年、ASEANやアフリカの国々からは、「ASEANを冷戦の駒にするべきではない」、「アフリカは新たな冷戦の温床にならない」、「結局戦争をするのは大国であり、戦争はヨーロッパで始まる」など、米中対立やウクライナ戦争など大国間対立に対する不満や警戒の声が相次いで聞かれた。ウクライナ戦争によってロシアに制裁が実施されているが、制裁を実施しているのは世界で40カ国あまりしかなく、ASEANでもシンガポールのみだ。ウクライナ侵攻後も原油や天然ガスを獲得するため、ロシアとの関係を維持・強化する途上国も多い。

ASEANではラオスやカンボジア、ミャンマーなどは経済的に中国の影響を強く受けているが、グローバルサウスでは親中的な政権も決して少なくない。一方で、債務の罠など中国への警戒心を強める国が増えているのも事実であり、そういった国々は欧米との関係を再び重視しようとしている。

このようにグローバルサウスに属する国々の立場や目的、優先順位はそれぞれであり、決して1つのグループではなく、それを束ねた総称にしか過ぎない。しかし、これは言い換えればそれほど今日の国際政治は多元的に展開されていることを意味する。

◆治安太郎(ちあん・たろう) 国際情勢専門家。各国の政治や経済、社会事情に詳しい。各国の防衛、治安当局者と強いパイプを持ち、日々情報交換や情報共有を行い、対外発信として執筆活動を行う。

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