戦乱で夫を亡くし、幼子を連れて側室に…2代将軍の母・於愛の方役 「どうする家康」出演の広瀬アリス、名字のルーツ

大河ドラマ「どうする家康」で於愛の方(おあいのかた)を演じる予定の広瀬アリス。

於愛の方は三河の国衆西郷氏の家臣戸塚氏の娘。幼い時に父が討死したため、母の実家である西郷氏のもとに身を寄せ、いとこの西郷義勝に嫁いで一男一女を設けていた。しかしこの義勝も武田軍と戦って討死、寡婦となった於愛は再び西郷家に戻り、のちに徳川家康に召し出されてその側室となった(寡婦になったのは2回ともいう)。

西郷家から家康の側室となったため、一般的には「西郷局」と呼ばれることが多い。於愛の方は38歳で死去したが、2代将軍となる秀忠を産み、第109代明正天皇は曾孫にあたるなど、子孫は繁栄した。

さて、於愛の方をつとめる広瀬アリスの「広瀬」は、全国ランキングで150位以内(「廣瀬」を含む)に入るメジャーな名字で、沖縄と東北を除いて全国に広く分布している。

「広瀬」は地形由来の名字で、「広い瀬」に因む。「瀬」とは川の流れの速いところや、歩いて渡れるくらい浅い場所を指す。

江戸時代以前は、大きな都市や街道でない限り川に常設の橋は架けられていなかった。大きな川には渡し船があって船で渡れるが、小さな川は歩いて渡るしかなく、水深の浅い「瀬」がどこにあるかは重要だった。

そもそも、自然の川には浅くて流れの速い「瀬」と、深くて流れの遅い「淵」がある。これらは、「淵」、「平瀬」、「早瀬」(流れの速い瀬)の順に出現する。「瀬」にはたくさんの水生昆虫がおり、それを食べる川魚も多い。またこうした川魚の産卵場所でもあり、豊かな川を守る重要な場所でもある。

つまり、「瀬」は人々が川を渡ったり、漁をしたりするのに必要な場所で、その瀬が広いというのは生活する上で貴重な場所だった。そこから、そうした場所が「広瀬」という地名になり、その付近に住んだ人が「広瀬」を名字とした。

「広瀬」は全国に多いが、とくに山梨県に集中しており、次いで岐阜県と大分県に多い。山梨県と岐阜県には海がなく、大分県でも「広瀬」が多いのは豊後大野市や竹田市などの内陸地方。浅くて流れの速い瀬が広がっているのは川の上流部分に多く、内陸部分に「広瀬」という名字が多いのは納得がいく。

因みに、広瀬アリスは静岡県の出身である。

◆森岡 浩 姓氏研究家。1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部卒。学生時代から独学で名字を研究、文献だけにとらわれず、地名学、民俗学などを幅広く取り入れながら、実証的な研究を続ける。NHK「日本人のおなまえっ!」にコメンテーターとして出演中。著書は「47都道府県名字百科」「全国名字大事典」「日本名門名家大事典」など多数。

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