老舗温泉旅館でのレジオネラ菌検出で高まる不安…はたして他の浴場は安全か 「決して稀なケースではない」豊田真由子が訴える“対策の必要性”

福岡の老舗旅館の大浴場で、基準値の3700倍のレジオネラ菌が検出され、利用者の方がレジオネラ症を発症していました。条例で週1回以上とされていた湯の交換を、年2回しか行っていなかったということです。

温泉好きの方は多く、今回のことで、不安を感じられた方も多くいらっしゃるのではないかと思います。わたくしは、厚労省で旅館業法・公衆浴場法等を担当していた経験から、率直に言って、こうしたことは、この旅館だけではないだろうという懸念とともに、なぜ規制を守れない施設が多くあるのか、といった点についても、利用者の健康を守るという観点から、改めて考えてみたいと思います。

■レジオネラ症について

今回の旅館の社長は記者会見で、レジオネラ属菌を「大した菌ではないと思っていた」と述べましたが、決してそんなことはありません。

▽レジオネラ症とは?

レジオネラ属菌は、自然界(河川、湖水、温泉、土壌など)に生息している細菌で、感染すると、肺炎を引き起こす場合があり、重篤化し死亡するケースもあります。我が国でも毎年50-70名程の死亡が報告されています。高齢者や新生児、喫煙者や透析患者、免疫機能が低下している方等は、レジオネラ肺炎のリスクが高いとされ、注意が必要です。

レジオネラ症は、感染症法上の4類に分類されており、全数報告対象で、毎年2000件前後の報告があります。

レジオネラ症の潜伏期間は2~10日で、全身倦怠感、頭痛、食欲不振、筋肉痛などの症状に始まり、咳や38℃以上の高熱、寒気、胸痛、呼吸困難等が見られるようになります。

▽どうやって感染する?

レジオネラ症は、レジオネラ属菌に汚染されたエアロゾル(細かい霧やしぶき)の吸入等によって、感染して発症します。レジオネラ属菌は、ヒトからヒトへ感染することはありません。代表的なエアロゾル感染源としては、冷却塔水、加湿器、循環式浴槽などが報告されています。温泉浴槽内や河川で溺れた際の汚染された水や、土壌の粉塵を吸引・誤嚥したこと等による感染事例も報告されています。

▽予防するには?

風呂(自宅・共同浴場等)での感染を予防するには、何よりも湯をこまめに換え、浴槽などを清掃することですが、循環式浴槽(追い炊き機能付き風呂・24時間風呂等)を備え付けている場合も、浴槽内の汚れや細菌で形成される「ぬめり」が生じないよう、定期的に洗浄等を行い、レジオネラ属菌が増殖しやすい環境をなくすことが大切です。

■今回の旅館のケースは、どうなる?

今回の旅館は、換水や消毒について、条例で定められたルールを守らず、そして、行政に対して虚偽の報告をしていたということでした。

(なお、報道で取材を受けた他の旅館の中には、「条例の規制内容を知らなかった。うちもそんなに頻繁に換えていない。」といった声もあるようですが、当然のことながら、法令の不知や事実誤認は、違法性を阻却する事由にはなりません。)

旅館・ホテルの共同浴場は、旅館業法の適用を受け(宿泊者以外にも入浴サービスを提供している場合(いわゆる日帰り温泉)は、別途公衆浴場法の適用も受けます。)、衛生状態を保持するための具体的な措置は、各都道府県の条令に委任されています(4条)。

具体的な換水の頻度について、今回の福岡県の条例では「浴槽水は、1日に1回以上完全に換水する。ただし、連日使用型の循環浴槽(集毛器、消毒装置及びろ過器のいずれをも備えた浴槽)を使用する場合にあっては、1週間に1回以上、完全に換水する」とされており、どの都道府県の条例も、基本的には同様となっているようです。

今回のケースは、2022年8月に旅館の利用者がレジオネラ症を発症し、その後の福岡県の調査で、基準の2倍を超えるレジオネラ菌が検出されましたが、旅館は「湯の交換や(消毒用の)塩素の濃度は適正」という虚偽の報告をしていました。

さらに10月の自主検査の際は、「検体に塩素を加えたものを提出」して「菌は検出されなかった」としていたということです(←ビックリです)。そして11月の県の抜き打ち検査で、基準の3700倍のレジオネラ属菌が検出されたという経緯です。

こうしたことに関する罰則としては、県の調査に対して虚偽の報告をしていることについて、50万円以下の罰金(旅館業法11条)、法令上の衛生基準を満たしていないことについて、改善命令(7条の2)や、営業許可の取消や一時停止(8条)の可能性があります。そして、利用者が実際にレジオネラ症を発症しておられますので、場合によっては、刑法の業務上過失致傷罪(211条)や、民法上の損害賠償請求(709条)等の対象となる可能性もあります。

ただ問題は、この旅館が罰せられれば解決する、世の人々の不安が解消される、ということではない、ということだと思います。

■他の浴場は安全なのか?

少し古いデータになりますが、2002年に公衆浴場等でレジオネラ症事例が多発したことを受け、2003年に、厚労省が公衆浴場と旅館を対象に行った調査結果では、緊急一斉点検を行った3万1826施設のうち、換水・清掃・消毒などの衛生管理等の点で問題があるとして、指導を受けた施設は1万7726施設(55.7%)もありました。

また、この調査におけるレジオネラ属菌の検査結果は、「行政検査」を実施した5945施設のうち、1576施設(26.5%)、「自主検査」を実施した1万1669施設のうち、1370施設(11.7%)で、レジオネラ属菌が検出されました。(※この結果について、私としては、行政検査より自主検査での検出割合が、顕著に低いことが気になります。)

この結果から考えると、当時から状況が大きく改善されていると期待はしつつも、今回の福岡の旅館の件が、決して稀なケースではない、ということが推察されます。実際、昨年の4月には、有馬温泉の施設を利用した70代の男性が、レジオネラ症で亡くなりました。

■では、どうするか?

もし、現在の規制や基準が必要最小限度のもので、これを厳しく遵守しなければ、必要な衛生水準を保つことができない、ということであれば、例えば、行政が、抜き打ち検査を頻繁に行い、違反のあった施設には罰則を厳しく適用する、など、実際に規制を守ってもらえるように、どんどん措置を講じていくしかないと思います。もはや、性善説に依拠していては、国民の生命と健康を守ることができなくなっている、という由々しき事態です。

また、もし、現在の規制や基準が、コストや手間、技術の進展などにかんがみ、現実的なものでなくなっているということなのであれば、施設を叩くだけでは、問題は解決しません。もし、技術の向上などで、規制や基準を少し緩和しても、他の方法を駆使する等して、十分に必要な衛生水準が保てるということなのであれば、「利用者の健康を守るために、施設側に規制を守ってもらえるようにする」という観点から、改めて見直しをするといったことも、あり得るのかもしれません。

あるいは、現在の規制や基準が絶対だということになれば、低価格競争の波を見直し、施設側が、衛生水準を守るためのコストと手間を回収できるくらいには、宿泊料を設定できるようにする、といったことも考えるべきなのかもしれません。

もちろん、手間やコストをかけて、真摯に法令を遵守されている施設もちゃんとあり、今回のようなことで、そうした施設まで、世間から広く疑いの目で見られてしまうことは、大きなマイナスであることは、言うまでもありません。

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安らぎを求めて旅館を利用するお客にとって、「浴場が適切に換水・消毒されておらず、レジオネラ属菌がウジャウジャいる」なんてことは、想像もしていない、おそろしいことです。利用者と施設の関係は、「当然きちんとやってくれている」という信頼に基づいて成り立っているのであり、そうした暗黙の当然の信頼を裏切ったことは、極めて大きな責任があると思います。

新型コロナ渦で、旅館をはじめとする観光業界は大きな打撃を受けました。長く旅行を我慢していた国民の皆さまも、ようやく出かけられる、という機運が高まっている中、「このお湯だいじょうぶかな、このお料理だいじょうぶかな」といった不安を抱くことなく、そして、ちゃんとがんばる施設が報われるような、どなたにとっても幸せな環境づくりを皆で構築していくことが、大切なのだと思います。

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【参考】

〇入浴施設におけるレジオネラ症防止対策の調査結果(厚生労働省健康局生活衛生課 平成15年3月31日現在)

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。

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