「若手のモチベ、税金で剥ぎ取るな」 アニメ界のレジェンド、インボイス制度に反対の旗振り

2023年10月に始まるインボイス制度(適格請求書等保存方式)に反対する動きが、フリーランスで働くクリエイターや個人事業主らの間で広がりを見せている。声優の有志や日本出版者協議会、日本漫画家協会、日本アニメーター・演出協会、日本SF作家連盟、映演労連などの団体が続々と反対の声明を発表。10月26日には東京・日比谷野外音楽堂で「STOP!インボイス」を掲げた集会が、11月16日にはエンタメ業界の4団体による合同記者会見が開かれ、「新たな納税や煩雑な事務作業を強いられることに多くの人が廃業を考えており、業界が大打撃を受ける」として、制度の見直しを強く求めた。アニメ業界では、「日本が誇るアニメ文化を守るために」とレジェンド級の重鎮たちが率先して反対の旗振り役を務め、注目を集めている。積極的に発言を続ける代表的な3人に話を聞いた。

インタビューに応じてくれたのは、「呪術廻戦」の総作画監督などを務めるアニメーターの西位輝実さん、スタジオジブリや「新世紀エヴァンゲリオン」を制作していた頃のガイナックスを経て現在はアニメ制作会社「トリガー」代表を務める大塚雅彦さん、「機動戦士ガンダム」などに携わってきたプロデューサーの植田益朗さん。日比谷の集会では3人とも壇上でスピーチしたほか、アニメ、声優、漫画、演劇のエンタメ4団体による合同記者会見には大塚さんと植田さんが出席し、アニメ業界の現状などを報告した。

インボイス制度で直接的な影響を受けるのは、売上高が1000万円以下の免税事業者とされる。インボイス(適格請求書)を発行するには課税事業者になる必要があるが、これによって新たな消費税負担や膨大な事務負担が発生するため、現場では「ギリギリの収入で続けている人にとっては死活問題だ」と懸念する声が大きい。

一方で、個人事業主やフリーランス、税理士らでつくる「STOP!インボイス」や、声優の有志が立ち上げたグループ「VOICTION(ボイクション)」などの活動もあって、状況は少しずつ変わりつつあるという。今年9月以降だけでも、制度に登録した個人事業主の杜撰な公表方法が見直されたり、激変緩和措置導入の検討の動きが報じられたりしている。

大塚さんは「反対の声を上げ始めたときは、正直『どうにもならないかも』と思っていたけど、希望の兆しが見えてきたという手応えがあります。どう考えてもおかしな制度ですから、諦めずに続けてきてよかった。周囲の反応も、誰に聞いても『もう仕方がない』と言われていた最初の頃と違い、『変えましょう』という機運が日を追うごとに高まっているのを感じます」と話す。その上で「私たちはアニメの人間だからアニメ業界が困る、存続が危うくなるという話をしますが、フリーランスの免税事業者だけではなく、ほぼ全ての人、全ての業界に影響する制度です。その問題意識を業界の枠を超えて共有していかなければなりません」と釘を刺す。

アニメ業界で働くフリーランスを対象に実施したアンケートでは、半数以下が年収300万円未満であり、インボイス制度の導入で4人に1人が廃業の危機を感じているという結果が出た。

アンケートの代表世話人を務めた植田さんは「収入の厳しさについては、これまでも問題として認識していましたが、廃業を考えている人がこれだけ多いことには衝撃を受けました。回答を寄せてくれた人の大多数は、インボイス制度をきちんと理解した上で、反対ないしは懸念の意思を示しています。制度がもっと知られれば反対する人はもっと増えるはずですし、実際に導入されてしまったら大混乱を招くのは必至。それくらいの“悪制度”だと私は考えています」と断じる。

■若い世代のためにベテランが声を上げる

このアンケートによると、インボイス制度によって廃業を考えている年代は20代と30代が約8割を占めているといい、生活が立ち行かなくなることが容易に想像できる。ただ、アニメーターの収入問題とインボイス制度の問題は少し切り分けて考える必要があるかもしれない。今や日本を代表するアニメーターの一人である西位さんも、初任給は2800円。親の仕送りを頼って生活していたという。

「業界の構造に問題があるというのは、もちろん何十年も前から言われてきました。でも実は今まさに、働き方改革を含めてアニメ業界全体で解決に向けて動き出しているところなんです。特にここ2年くらいで、新人の扱いはかなり変わりました。それは求人情報を見ると一目瞭然で、例えば社員として採用しようという動きや、制作会社の下で育成塾が立ち上げられたりするなど、改善の流れが加速しています。それやのにこのタイミングでインボイス? なんでやねん!という感じ」(西位さん)

西位さんには「若い世代の力になりたい」という強い思いがあるという。

「正直、若い子たちはインボイス制度にピンと来ていないと思います。自分もそうでしたが、若い頃って税金も確定申告もよくわからないじゃないですか。ましてや、今回のような賛否両論が紛糾しているところに飛び込むには大変な勇気が要ります。そんなややこしいことに、若い子を巻き込みたくない。もし自分が若い頃にインボイス制度の話があったら本当にキツかったと思うから、“元・若手”である私たちベテランが今、ちゃんと戦わないといけないんです」

「アニメ業界は、若手も個人事業主で少ない収入から始まり、技術の向上とともにギャラが上がっていくという芸事の世界です。インボイス制度はそんな若い世代からまだ取ろうというのでしょうか。アニメの世界に飛び込むためのハードルを上げないでほしいし、若い子のモチベーションを税金で剥ぎ取るのもやめてほしいです」

3人に共通しているのは、インボイス制度によってアニメ文化の豊かさが失われるかもしれないという危機感。そして悪影響はアニメ業界だけにとどまらず、全業界に及ぶという問題意識だ。

植田さんは「今後は各団体、業界と繋がりを広げ、もっともっと大きなうねりにしていきたい。とにかく100年くらい延長してくれれば許してやるという気持ちです。そのためだったら何でもやりますよ。話題になるなら(ガンダムの)シャアのコスプレで顔を出したっていい。何やってんだバカ、と言われると思うけど(笑)、それくらいの覚悟です」

(まいどなニュース・黒川 裕生)

関連ニュース

ライフ最新ニュース

もっとみる

    主要ニュース

    ランキング

    話題の写真ランキング

    リアルタイムランキング

    注目トピックス