「下半身は痺れて感覚を失う」…梨泰院の事故で注目集める「雑踏警備の手引き」 理性が低下してしまう群集心理とは

 韓国の首都ソウルの繁華街・梨泰院の路地で155人が亡くなった雑踏事故。これを受け、明石歩道橋事故の教訓として兵庫県警が作成した「雑踏警備の手引き」が注目されている。手引きでは、雑踏がもたらす脅威や、群衆を防ぐための警備などを紹介。「人の重みと圧力で息ができなくなり、目の前が真っ暗になった」など、事故に巻き込まれた人の生々しい証言も掲載している。

 手引きは、2001年7月21日、兵庫県明石市の花火大会で起きた雑踏事故や警備体制を教訓に作られた。事故では、JR神戸線朝霧駅の歩道橋上で、会場に向かう客と駅に向かう客が押し合いとなり転倒。11人が死亡、247人が重軽傷を負った。当時、安全を守る責任を果たせなかった主催者の明石市や、警備を担った警察が責任を問われた。

「人の重みと圧力で息ができなくなり、目の前が真っ暗になり数秒であると思うが気を失った。何人もの人が倒れ、覆い被さってきて、周りの人達も体が半分以上埋まっていて、誰一人動けず、子供を引っ張り出そうにも身動きもできず、下半身は痺れて感覚を失い動けなく、どうしようもなく、子供がいることを叫び救助を待った」(当時32歳の男性)

「人波で左右に押されて娘は挟まれる度に“グェー”と呻きながら何度も白目を剥き、気を失い、すぐ後ろは楕円形に将棋倒しが起きていた。倒れた人に片足を抱きつかれ、何度も倒れた人を踏んでしまっていた。そうしなければ立っていられなかった」(当時30歳の女性)

 手引きではまず、事故に遭遇した人の言葉を掲載し、雑踏事故がいかに脅威であるかを伝えている。次に、雑踏の定義や特色を紹介。「多くは恒例的、年中的な行事に関連して、早くから予測可能である」と指摘している。警備対象としては▽祭礼▽花火大会▽興行▽競技などで、行事開催により特定の場所に不特定多数が集まるもの。特に、トンネルや階段、袋小路のような逃げ場のない空間で、事故の危険性があるという。

 また、雑踏事故は、群集心理に影響することも大きいという。単なる人の集まりであっても、「各人の役割もないことから組織性がなく、匿名性ゆえに理性が低下しやすく、異常な雰囲気に巻き込まれるとさらに無責任性、無批判性の暗示にかかりやすくなる」とし、混乱と無秩序が重なって事故が発生するという。

■「六甲おろし」は雑踏防止に効果的

 では、雑踏事故を防ぐにはどうすればいいのか。事故防止には、警備する側の「ハード面」と「ソフト面」からの対策が必要という。ハード面では、空間がオープンスペースが原則とし、ソフト面では「人は常に動かす。しかもゆっくり。人の流れをぶつからせない。一方通行が大原則」などを挙げている。群集密度を減らすための工夫も書かれており、警備員が人垣で誘導したり、ロープで区分通行させたりするのも効果的であるという。また、時差入場や時差退場などを行い、分散させることも有効な手段。甲子園球場で歌われる「六甲おろし」も、雑踏防止につながっているという。

(まいどなニュース・山脇 未菜美)

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