豊田真由子が日本の少子化問題を解説 原因を正しく分析することで見えてくる3つの対策ポイント

6月3日に公表された2021年の日本の合計特殊出生率は1.30、出生数は81万人で、いずれも過去最少となり、人口減少の加速が問題とされています。厚労省は、「15~49歳の女性人口の減少」と「20代の出生率低下」を理由に挙げています。

少子化対策においては、率直に言って、内容の偏りや不足、実際の社会環境や人々の意識の変化に対応しきれていないといったことから、結果、的を射ていない、あるいは、十分な活用が進んでいない(そして「効果が上がらない」と言われる)ところがあると思います。

■我が国の「少子化」の原因は何か?

どんなことであれ、対策を考える上で大切なのは、「原因」を正しく分析することです。

必ずしも正確に理解されていないように思いますが、今の日本の少子化の最たる原因は「未婚化」で、「産まれる子どもの数が減っている」のは、(そもそもの「15~49歳の女性が減っている」ことに加え)、「結婚する人の数(割合)が大幅に減っている」ことがあります。

「合計特殊出生率が減少している」ことについて、「ひとりの女性が生涯に産む子どもの数が減っている」と説明され、誤解を招きがちですが、「合計特殊出生率」は、「15~49歳の女性の年齢別出生率を合計したもの」で、分母には、既婚・未婚、両方の女性が含まれていますので、未婚率が上昇すれば、当然、出生率は下がります。

実は、「結婚した女性が出産する子どもの数」は、この50年あまり、それほど減っていません。日本では婚外出生が少なく(2.3%(2019年))、したがって、合計特殊出生率の低下を「有配偶率の低下(未婚化)」と「有配偶出生率の低下(15~49歳の既婚女性の出産数の減少)」とに分解して考えると、前者の出生率引き下げ効果は、後者よりもはるかに大きいのです。

さらに、「晩婚・晩産化」もあります。子どもを望んでもなかなか恵まれないという悩みを抱える方は多く、夫婦の3組に1組は不妊の心配をしたことがあり、5組に1組は検査や治療を受けたことがあり(2015年)、いずれも増加傾向にあります。(国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査」)

こうしたことを踏まえれば、「子どもを育てやすい環境を整備すること」はもちろん大切なのですが、その前段階の「結婚すること」「妊娠すること」への効果的で重点的なサポートの必要性が、通常考えられているよりもかなり大きい、ということになると思います。

(※)もちろん、結婚や出産というのは個人の選択に基づくことであり、「結婚しない自由」、「子どもを持たない自由」、「結婚せずにパートナーを持つ自由」」、「結婚せずに子どもを持つ自由」といったことも、当然に尊重されるべきです。また、人口減少のマイナス面とプラス面や、「結婚」という形態にとらわれずに出産・子育てをすることについても議論がなされています。

本稿はあくまでも、「少子化対策」を考える上で、その原因の正しい分析と、それに基づく対策が必要であることについて、データに基づいてご説明しようとするものであり、決して「結婚するべき」、「子どもを産むべき」、「多く産むべき」といった話をしているわけでは全くない、という大切なことを、まず申し上げておきたいと思います。

■求められる視点

これまでの政府の少子化対策は、待機児童解消や男性の育休取得の促進など、夫婦に対する育児環境や労働環境の整備が中心でした。もちろん、これも非常に大切なことです。

さらに、少子化の要因としては大きいものの、そこまで目が向けられてこなかったこととして、結婚や出産への意欲が減退している、あるいは、希望はあるが叶っていないといったことがあります。その原因としては、経済的理由や適当な相手に巡りあわないといったことが挙げられています。こうしたことへの効果的なアプローチが必要であるとともに、多様化する個人の選択や人生設計に、ひとつの価値観だけを押し付けない、という配慮も必要だろうと思います。

政府の政策と、女性のニーズや望みとの乖離もあると思います。

議員のときからずっと申してきたことなのですが、例えば政府の「女性活躍推進」として、「国会議員や上場企業の管理職に占める女性の割合を3割にする」と声高に言われるのを聞くと、「いやいや、(それはそれで大事なことではあるけれど)、実際に世の中の大半の女性に関係があること・望まれていることは、そこじゃないよ。もっと広くきめ細やかに、ちゃんとニーズを汲んでおくれよ。」と思わずにはいられませんでした。

育休制度にしても、取得の促進以前に、非正規雇用の方は基本的に対象になっていないということや、特に中小企業にとっては、社員が育休中に代替の方を雇うのは経営的に容易なことではない、といった、社会の現状に関する正しい理解ときめ細やかな配慮が必要だと思うのです。

以下、具体的にデータを見ていきたいと思います。

なお、戦後すぐの時代と、高度経済成長期・第二次ベビーブーム以後の時代とでは、社会環境や家庭環境、人々の意識等も大きく変化していますので、データの推移を比較するのは、基本的に1970年代以降から現在までとしています。

▼15~49歳の女性の数

国勢調査によると、15~49歳の女性の数は、3060万人(1980)、2930万人(2000年)、2500万人(2020年)となっており、40年間で約2割減っています。

▼合計特殊出生率と出生数

合計特殊出生率の推移を見ると、2.13人(1970)、1.75人 (1980)、1.54人(1990)、1.36人(2000)、1.39人(2010)、1.30人(2021)となっています。

出生数の推移を見ると、193万人(1970)、158万人 (1980)、122万人(1990)、119万人(2000)、107万人(2010)、81万人(2021)です。

▼未婚率

女性の50歳時の未婚率は、3.3%(1970)、4.5%(1980)、4.3%(1990)、5.8%(2000)、10.6%(2010)、16.4%(不詳補完値で計算すると17.8%)(2020)と、大幅に増加してきています。

▼夫婦の子どもの数

夫婦の完結出生児数(結婚持続期間15~19年の夫婦(初婚に限る)の平均出生子ども数)は、2.20人(1972)、2.23人(1982)、2.21人(1992)、2.23人(2002)、1.96人(2010)、1.94人(2015)となっており、既婚女性の産む子どもの数は、この40年余りの推移では、それほど大きくは減っておらず、2人前後ということになります。

▼平均初婚年齢と平均出産年齢

女性の平均初婚年齢は、24.7歳(1975)、25.2歳(1980)、25.9歳(1990)、27.0歳(2000)、28.8歳(2010)、29.6歳(2019)です。

女性が第一子を出産する時の平均年齢は、25.7歳(1975)、26.4歳(1980)、27.0歳(1990)、28.0歳(2000)、29.9歳(2010)、30.7歳(2019)となっています。

■社会環境や意識の変化

わたくしたちの親の世代は、兄妹が多いことが当たり前でした。全出生数のうち、第5子以上の子どもの占める割合は、17.8%(1950)、4.2%(1960)、0.8%(1970)、0.6%(1980)、0.6%(2000)、1.0%(2020)で、戦後急激に減少し、この50年ほどは、ほぼ横ばいということになっています。

戦前・戦後すぐの「新生児・乳児死亡率が高かったこともあり、多くの子どもを産んで、農商業等の家業を手伝わせる」といった社会・労働・家庭環境は大きく変わり、1970年代以降は「1~3人ほどの子どもを、時間と手間をかけて育てる」という傾向にあります。

つまり、仮にいくら環境が万全に整えられたとしても、意識の問題として、「昔のようにたくさんの子どもを産む」ということにはならない、ということへの留意も必要だと思います。

■少子化対策のポイント

こうしたことをベースに、少子化対策を考える上でのポイントを、(単純化して)申し上げると、

① 「未婚化」に対応するものとして、

結婚したい女性・男性が結婚できない状況を打開する

② 「晩婚・晩産化」に対応するものとして、

妊娠を望む女性が、妊娠できない・しにくい状況を打開する。

例:不妊治療への保険適用(2022年4月~)

③ ①②共通のものとして、

出産・子育てにかかる経済的・精神的・身体的・社会的負荷を軽減する

仕事と育児の両立に伴う困難を解消・減少する 

といったことになると思います。引き続き、これまで主眼であった③を効果的に進めるとともに、①②の拡充が求められます。

■考慮していただきたいこと

少子化対策を考える上では、必ず「女性たち自身がどう考えるか、どういう人生設計をしたいか、何を望んでいるか」を尊重していただきたいと思います。

出産や結婚について価値観を押し付けるようなことは論外ですが、さらに誤解をおそれずに申し上げれば、政策の中枢にいらっしゃる、おそらく子育ても家事も奥方に任せきりだったであろう方々(時代的にそうだったということで、ご本人がいけないというような単純な話では無いわけですが)から、「人口が減ったら国の将来が危うい。そうならないように、女性はもっと子どもを産むべき」、「生物学的に最適な出産年齢は20代前半だから、この時期に産むようにすべき」といった主張がなされるのを聞くたびに、正直、かなり複雑な心境になります。

人口減少問題は、急激に変化している社会・経済・家庭環境や、人々の意識や人生設計といった様々な要素を、繊細さを持って考慮する必要があり、人々のニーズをきめ細やかに汲み取りながら、その思いに沿った解決策を模索・実行していくことが、大切だと思います。

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。

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