ウクライナ問題、注視したいロシア国内の動きと中国の立ち位置 豊田真由子の読み筋

ウクライナ問題で、中国、ロシア国内の動きと今後の衰退、歴史の教訓について、考えてみたいと思います。

■中国はどうする?アジア地域への波及は?

3月18日、ウクライナ問題に関し、米バイデン大統領と中国習近平総書記の電話会談が行われました。バイデン大統領は「ロシアへの支援は結果を伴う」と中国を牽制し、習総書記は「制裁は解決策にならない」とロシアへの制裁を批判しました。

中国は、確かにロシアと“友好関係”にあり、国連安全保障理事会(2月26日)及び国連総会(3月3日)でのロシア非難決議の採択でも、棄権をしました。(なお、決議に反対したのは、ロシアとベラルーシ、シリア、北朝鮮、エリトリア)

ただし中国は、実際にロシアに加担しているベラルーシやシリアとは関わり方が違いますし、極めてしたたかで戦略的だと思います。国際秩序を侵害したロシアが、現在国際社会から受けている激しい非難が、自国にまで向かうようなことは避けたいはずですし、この状況下で「中国はロシアの味方である」と見られることや、自分に火の粉が降りかかってくることは、避けたいと思っているはずです。

「中国が仲介に入るか」という点についても、現在までの中国の動きを見る限り、この困難な役を引き受けるインセンティブは低いだろうと思います。

そもそも、中国とロシアは、西側世界に対峙するという点において利害が一致する故に“友好関係”を形成しているのであって、中国は、今回ロシアが、およそ戦略的に優れているとはいえない軍事侵攻を強行したことを、内心、愚かだと思っているのではないでしょうか。そもそも強力な「中華思想」に依拠して、自国こそが世界の中心であるべきと信じる中国からしたら、ロシアとて「本当の仲間」でもないでしょうし、「漁夫の利」がどこで取れるか、の判断で、中国の行動は変わってくるでしょう。

中国は一筋縄ではいかない国ですが、西側諸国としては、中国がロシアに、軍事的支援はもちろん、経済的・物資支援を行わせないようにする、という牽制を行い続けることが大切だと思います。

また、今回のロシアのウクライナ侵攻が、アジアへ波及する可能性を危惧する見解もありますが、今回の侵攻を受けた形で、中国が台湾に軍事的な行動を直ちに起こすといったことにはならないだろうと思います。(なお、中国の立場としては、あくまでも台湾は中国の一部ということになりますので、ウクライナのような主権国家の侵害とはケースが異なる、ということになります。)

なお、ウクライナ問題とは別に、そもそも日本として台湾有事に備える、ということは、当然に必要なことだと思います。

■ロシア国内の動き

3月18日には、ロシアがクリミア併合8周年を祝う政府主導のイベントがロシア各地で行われ、モスクワでの式典に出席したプーチン氏は、満員のスタジアム(公式収容人数約8万人)で歓声を浴びながら、ウクライナでの『特別軍事作戦』の意義を強調しました。主催者発表では、式典には会場外も含め20万人以上が集まったとされています。(英BBCによれば、公務員が多く動員されて来ていたという指摘もあります。)

日本を含め西側では、ロシア国内の反応というと、反戦運動に関するものが大きく報道される傾向があると思いますが、私はこの式典で(動員もあるのだと思いますが)、プーチン氏の演説に目を輝かせて歓声を上げる大観衆(若者もたくさんいました)の姿に、正直面食らい、西側の価値観からだけ物事を判断しては見誤ることになると、改めて痛感しました。

ウクライナ侵攻後のプーチン氏のロシア国内での支持率は約70%あります。

プーチン政権は、反政府系メディアや外国報道機関の活動を統制し、3月4日にはロシア軍に関する虚偽情報を広める行為に最大15年の禁固刑を科す法案を可決するなど、ウクライナ侵攻の現実が国民の目に触れないようにと、様々な強行策を講じています。

困難なソ連時代を知る中高年以上の年代の者は、プーチン氏をソ連邦崩壊から国を建て直した立役者と捉えている人も多く、プロパガンダをそのまま信じてしまう傾向もあります。一方、ソ連時代の苦難を経験しておらず、ネットで世界からの情報に触れている人は、「ロシアがウクライナに対してやっていることには正当性が無い。ウクライナで無辜の民が殺されている。」と認識することもでき、一部著名人の発言や、各地での反戦活動、国営テレビ局職員の放送中の抗議活動などの動きも見られますが、治安当局に拘束されてしまいます。

プーチン氏は、国内の反戦運動や国際社会の制裁にもひるむことなく、国内の弾圧や情報・海外との交流を制限し、当面ウクライナへの攻勢を強めていくという見方が濃厚で、本当に暗澹たる思いがします。

されど、インターネットの普及によって、どんな専制国家であっても、国民の情報へのアクセスを完全に遮断することは難しく、第二次世界大戦時に各国で見られたように、「当局が自らに都合の良い情報だけを流して、国民を欺き、世論を誘導する」ということは容易ではないでしょうし、また、普通に考えれば、誰だって、自らの自由や人権を抑圧され、反政府的な発言をしたら連行されるような国には住みたくはないはずだと、私は思います。そのときに大切なのは、「抑圧が当たり前と思ってきたかもしれないけど、そうじゃない、自由で民主的で弾圧をされない世界もあるんだよ」ということを、きちんと知らせる、ということだと思います。

時間はかかるかもしれませんが、ロシア国内から変革の動きが生じてくるという望みも持ち続けていたいと思います。

■ロシアの現実と衰退の進行

ロシアは「大国」と思われているかもしれませんが、現在のロシアは、国土や軍事費の規模は大きいですが、経済的には全く豊かとはいえません。1人当たりGDPは、世界で84位(米国の約6分の1、日本の約4分の1(※))で、主な産業と言えば、原油や天然ガス等の資源の輸出であり、限られた富裕層に富が集中し、一部の都市部以外は、発展から取り残されたような地域が広がり、自殺率は世界有数の高さです。

「希望が無い」というのは、人にとっても国にとっても、破滅的な行動に突き進む大きな要因ともなっているのだと思います。

(※)世界銀行データ(2020年)

国民1人当たりGDP:ロシア世界84位(10127ドル)、米国12位(63593ドル)、日本32位(40193ドル)、ウクライナ137位(3725ドル)

元々の経済や産業の力が強くない上に、今回の軍事侵攻により、ロシアは国際秩序を守る国際社会の真っ当な一員としての地位を失い、各国が連携した大規模な経済制裁により、グローバルな経済システム・貿易体制から締め出され(「完全に」ではありませんが)、当面海外からの投資もほぼ見込めなくなりました。

ロシア国民の生活への影響も大きく出てくるのはもちろんのこと、世界の中におけるロシアの孤立と衰退を、自ら招いた、ということになるのではないでしょうか。

■歴史からの教訓

2月22日、NY国連本部の安全保障理事会でのケニアのキマニ国連大使(元々はアフリカの紛争対応にもあたっていた戦争研究の専門家)のスピーチが、示唆に富み、日本を含めた西側諸国にとっても、自らの来し方を考えさせられるものでした。

「かつてアフリカの国々は、列強の植民地にされ、歴史・文化・民族・宗教を無視して勝手に国境線を引かれた。そして独立に当たり、アフリカの国々は、無理やり引かれた国境線、民族や文化の分断を受け入れた。それは国境線に満足していたからではなく、“平和の中に築かれる、より偉大な何か(something greater forged in peace)”を求めたからだ。ロシアが、歴史的に近い近隣諸国との統合を切望する心情を理解できなくはないが、しかし、そのような望みを「力」によって追求することを、我々は断固拒否する。我々は、新たな支配や抑圧に再び陥らない方法で、滅びた帝国の残り火から、自分たちの国を甦らせねばならない。」

そして、上述のような過去の植民地支配についてだけではなく、現在も、ロシアだけではなく、他の「国連安全保障理事会のメンバーを含む強国(powerful states)」も、国際法に違反し、同様のことをしているという言い方で、欧米や中国等のことも強く非難しています。

確かに、例えば、イラク戦争(2003~)やアフガニスタン紛争(2001~)は、欧米から見れば、“正義”の名の下に行われたものであるわけですが、攻められた国々(特に現地の一般の人々)の側から見れば、それは、欧米の理屈で行われた“軍事侵攻”に他ならないといえるのかもしれません。

(なお、現在のアフリカの中にもいろんな問題があり、ケニアもソマリアに軍隊を送ったりしていますが…。)

我が国も、先の大戦のこと等も思えば、ここは深く思いを致さねばならないことだと思います。

他国を軍事力で脅かすことや戦争は、長い人類の歴史の中で、繰り返し繰り返し、行われてきました。(まさにそれこそが人類の歴史、とも言えます。) その上で、現代の国際社会では、人類が叡智を結集し、国際秩序を形成し、平和を希求し、そして、それをなんとか実現しようと努めているわけです。様々な矛盾をはらんだ極めて難しいことではありますが、諦めず、そんなのきれいごとだと片付けず、平和な世界の実現を求め続け、すべての国が、そのために為すべきことを模索する努力を続けることを、切に願います。

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。

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