農業技術の継承、後継者不足の解消になるか…地球規模の二毛作で作った「裏旬」とは?

 南半球で育った、いまが旬のブドウ「裏旬」が今年も3月初旬から売り出され、注目を集めている。季節が真逆な日本とニュージーランドを行き来し、ブドウの通年生産に成功した「株式会社GREENCOLLAR」(東京都中央区)と生産パートナーである葡萄専心株式会社(山梨県笛吹市)が手掛けているもの。今後はこのスキームを応用し、農業技術の継承、後継者不足の解消や農福連携、さらには豊かなライフスタイルの実現につなげたい考えだ。

 太陽の恵みをたっぷり受けたクラフトぶどうブランド「極旬」が3月から都内の高級百貨店の店頭にドドーンと並んだ。日本でブドウの旬と言えば、確か8月後半から10月にかけてなのだが、こちらは季節が反対のニュージーランド育ち。山梨産の「表旬」に対し「裏旬」と呼ぶそうだ。

 裏旬は現在、巨峰とバイオレットキングの2種類だが、今後品種を増やしていく計画だ。「裏」だからと言って当然怪しいわけではなく、味はむしろ極上かもしれない。担当者は「雨が少なく、日照時間が長くて寒暖差があるのがブドウ栽培に適しています。さらに南半球は光合成に必要な紫外線が強いので、日本では皮ごと食べることのできない巨峰が皮ごと食べられ、渋みが少ないのが特徴」と太鼓判を押す。

 このプロジェクトが動き始めたのは、2016年ごろだった。ここから堅い話を少々。実は株式会社GREENCOLLARは、あの三井不動産グループの事業提案制度により生まれた社内ベンチャー企業。紆余曲折を経て、19年に生食用ブドウの通年生産を目指し、設立された。

 生産の指導責任者となったのは、山梨のベテラン農家で「葡萄専心株式会社」代表の樋口哲也さん。すでにニュージーランド北島のホークス・ベイ地方で日本品種のブドウを生産していたことが決め手となった。

 通年で旬のブドウを流通させることのメリットは”一石五鳥”ぐらいあるかもしれない。まずは人材面。「栽培にあたって、研修生を受け入れても年1回だと閑散期があり、次のシーズンまでに技術を忘れ、継承がうまくいかなかった。それぐらい繊細な技術が求められるわけです。それと通年雇用が難しく、家族経営が精いっぱい。収入面からも後継者が育たない現実がありました」と担当者。しかし、通年栽培だと、これらの課題を一気に解決してくれる可能性がある。

 さらに、生産量もアップすることからシンガポール、香港、中国、台湾、タイなど海外に販路を広げることで「Japan Quality」のブドウを認知させ、シェア拡大につなげていくことができる。

 季節差を利用しているケースとしては、サラブレッドの種牡馬が広く知られる。繁殖シーズンが違うことから北半球と南半球を往復。1年間に2シーズン分の種付けを行ってきた。種馬の気持ちになると複雑だが、効率はいいわけで、今回のケースでは馬ではなく、人が移動することで地球規模の二毛作を行うわけだ。

 会社名のGREENCOLLARには、こんな思いも込めた。

 「将来的にはこれらのスキームを使って、多品目栽培につなげていければ。もちろん、単に作って売るだけではなく、大自然の中で働いて、遊んでという豊かなライフスタイルを実現する会社にしたいと思っています」

 「極旬」は国内では三越日本橋本店、伊勢丹新宿店、SONOKO銀座店、渋谷のCoffee Supreme Japan、そして神奈川県大和市のMAISON GIVRÉE本店の5店舗とコラボ。評判は上々のようだ。

 地球規模の二毛作に新たな農業ビジネスモデルの可能性を感じた。

(まいどなニュース特約・山本 智行)

関連ニュース

ライフ最新ニュース

もっとみる

    主要ニュース

    ランキング

    話題の写真ランキング

    リアルタイムランキング

    注目トピックス