高齢化社会の課題を“解決”するジェロントロジー からだ・こころ・おかね…「知の再武装」とは?

1976年「団塊の世代」を著された堺屋太一氏が、2013年に書かれた予測小説「団塊の秋」(祥伝社)の冒頭に「人生は、玄い冬に始まり、青い春と朱い夏を経て、白い秋に至る。暗い冬で終わるのではない。」との記述がある。

人の一生を四季の移り変わりに例えるなら、実りの秋が最後にやって来るのであって、けっして暗い冬を人生の終わりに迎えるものではない、ということだ。何歳頃からが「秋」なのか、それは個人個人によって違うわけでご自身の人生に当てはめて考えてみていただきたいのだが、問題なのは最後に「冬」を迎えていないだろうか、あるいは迎えることにならないだろうかということだ。

ボーヴォワールはその著書「老い」のなかで、「最後の15~20年のあいだ、もはや一個の廃品でしかないという事実は、我々の文明の挫折をはっきりと示している」と書いている。また、人類学者の仮説「老人の地位処遇に関するドナルド・カウギルの仮説(13のテーゼ)」からはいくつか抜粋させていただきたい。

1.社会における老人の地位は近代化するほど低くなる。

2.老齢人口の比率が高くなるほど老人の地位は低くなる。

3.居住地が固定しているとき老人の地位は高くなり、居住地の移動性は地位の低さにつながる。

4.文字を持たない社会ほど老人の地位は高い。

5.拡大家族では老人の地位は高く、経済的安定を家族が与えるが、核家族化が進むと老人の地位は低くなり、経済的安定を与えるのは国家などの大きな集団に移行していく。

6.自我の発達や個人的業績を重視するような価値体系のもとでは老人は不利な立場にたたされやすい。

こうしてみてみると文明の発展(=近代化)は老人の地位を低くする方向に向いているといえそうだ。では、どうすればよいのだろうか。寺島実郎氏(日本総合研究所会長、多摩大学学長)はジェロントロジー宣言(知の再武装)を推奨する。ジェロントロジーは一般に「老年学」と訳されるが、寺島氏は「高齢化社会工学」を意味するという。

高齢化社会を構想する三つの要素「医療」からだ「宗教」こころ「金融」おかねのテーマに焦点をあて「知の再武装」を行い、高齢者の社会参画への道筋を示す。それは農業ジェロントロジー(食糧の問題)や、観光ジェロントロジー(コロナ後を見据えて高度観光人材の確保)そしてNPO、NGOへの挑戦(「カセギ」経済生活のための活動から「ツトメ」社会的貢献へ)などだ。けっして高齢者の自己満足や達成感のためではなく、高い潜在能力を社会全体に活かし社会を支える側に立つための「知の再武装」である。その結果、「高齢化によって劣化する人間」という見方を打ち消すことが可能になる。

「団塊の秋」のなかで、五十代中頃は晩夏の候だとし、八十になった登場人物が「年を取るのは難しいもんだ」と嘆く。私は先日58歳になったところなのだが、これから先「白い秋」を迎えることができるのだろうか、強い不安を感じる。

(参考)ジェロントロジー宣言「知の再武装」で100歳人生を生き抜く(NHK出版新書)著者・寺島実郎

◆北御門 孝 税理士。平成7年阪神大震災の年に税理士試験に合格し、平成8年2月税理士登録、平成10年11月独立開業。経営革新等認定支援機関として中小企業の経営支援。遺言・相続・家族信託をテーマにセミナー講師を務める。

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