リピーター続出!?コロナ禍に響く不思議な映画「のさりの島」 主演の藤原季節は大ブレイク中

“オレオレ詐欺”をしながら旅を続ける若い男と、寂れた商店街で楽器店を営む老女のちょっと奇妙な同居生活を描いた映画「のさりの島」が公開され、静かながら熱い反響を呼んでいる。決して「大ヒット」しているわけではないが、各地で何度も映画館に足を運ぶ熱心なファンが続出。「いわゆる“推し”っていうんですか? 自分の映画がこんな受け入れられ方をしたのは初めて」と戸惑いながらも喜ぶ山本起也(たつや)監督に話を聞いた。

「のさり」とはこの映画の舞台にもなっている熊本県の天草地方に古くからある言葉で、「自分の今ある全ての境遇は、天からの授かりものとして否定せずに受け入れる」という考え方。本作のプロデューサーを務める小山薫堂氏の出身地でもある。

■主演は大注目の若手、藤原季節

山本監督はドキュメンタリー映画出身で、2012年に初の劇映画である「カミハテ商店」を発表。脚本も手掛けた本作では、「his」(今泉力哉監督/2020年)、「佐々木、イン、マイマイン」(内山拓也監督/20年)、「くれなずめ」(松居大悟監督/21年)といった話題作のほか、NHKの大河ドラマ「青天を衝け」にも出演する注目の若手俳優・藤原季節さんを主演に迎え、まさに“のさっている”としか言いようのない、どこか不思議で優しい物語を紡ぎ上げた。

本格ブレイク前夜の藤原さんの印象は「勘のいい俳優」。詐欺をしながら全国を転々とする若者の役だ。天草の寂れた商店街に偶然たどり着き、そこで出会ったおばあさん(原知佐子)の家に転がり込むところから物語が始まる。

「食卓で2人が向かい合うシーンで、台本に書かれた台詞が終わった後もカットをかけなかったんですよ。そしたら勝手にどんどんやりとりを展開していくんです。瞬時に反応できる、ものすごい勘の良さだと感心しました」

「とはいえ、そこに至るまでにはいろんなことを考えて、しっかりシミュレーションしてきたからこそ自然にサッとできるわけで。勘がいいというのはちょっと違って、相当な努力家と言った方がいいのかもしれないですね」

■柄本明曰く「これは迷子の映画」…その心は?

何気ない“嘘”から始まった2人の関係は、まさに「のさり」の心が息づく天草の空気に溶け込むかのように、ただ淡々と編まれていく。つかみどころのないチャーミングな老女を演じた原さんは、本作が遺作となった。

「男の正体がいつバレるのか…みたいなサスペンスの定石を踏んでいないので、もちろんダメだという人もいます。でも(出演した)柄本明さんはすごく気に入ってくれました。柄本さん曰く、これは『迷子の映画』だと。『迷子って、見ちゃうだろ。気になって見ちゃうじゃないか。目が離せなくなるだろ。そういう映画なんだ』。そんな風に言ってくださったんです」

コロナ禍で公開が延びている間に、映画や映画館を取り巻く状況は一変した。休業を余儀なくされ、各地のミニシアターや映画関係者らが支援を求めて声を上げる動きもあった。配給や宣伝活動で地方の窮状を目の当たりにしてきた山本監督は「映画館という場所が、地域コミュニティに必要とされ続けるためにはどうすればいいのか。一人の映画人として、これからの映画のあり方まで真剣に考えるようになった」と語る。

■熱烈リピーターの誕生に「勇気づけられる」

およそ1年の延期を経て、ようやく公開された「のさりの島」。すると徐々に、山本監督らが予想だにしなかった反響が広がり始める。何度も鑑賞する「リピーター」が生まれたのだ。

「ものすごく熱烈に支持してくれる人たちが出てきまして。とにかく『のさりの島』が上映されていたら遠方からも来る、(藤原)季節くんが舞台挨拶するなら来るという感じ。パンフレットを複数冊買ってくれたりね。映画人生で、自分の作品がここまで推されるなんて初めての経験。本当にありがたいし、勇気づけられます」

「そういう人たちは多分、ストーリーを見に来ているんじゃないんですよね。そこに流れる“時間”を体験しに来ている。それで、みんな楽しそうなのよ。刺さる人にはものすごい刺さり方をする映画。天草で撮ったこと、コロナ禍で公開が延びたこと、季節くんに出てもらったこと…。完成に至るまでの道のりは全て理屈ではない。風がたまたまそっちに吹いたということ。もう二度と撮れない映画だと思います」

「のさりの島」は関西ではシネ・リーブル梅田で上映中。7月23日(金)からシネ・リーブル神戸、30日(金)からはアップリンク京都で上映。いずれも初日に山本監督の舞台挨拶を予定している。

(まいどなニュース・黒川 裕生)

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