豊田真由子「スピードのみならず、着実・確実に、が肝要」 ワクチン配布数と接種数<後編>
東京に12日、4度目の緊急事態宣言が出されました。
五輪・パラリンピックや夏休みを控え、更なる感染拡大を未然に防ぐために、予防的に出された緊急事態宣言、というニュアンスが強いわけですが、飲食店をはじめ、様々な事業者の方や国民の間に、経済的・精神的困難や政府への不信感が高じていることが、深く懸念されます。
そうした中、感染拡大抑制に有用であると考えられるワクチンの『供給不足問題』がクローズアップされていますが、果たして真実はどこにあるのか、データや各所からうかがったお話を基に考えてみたいと思います。なんであれ、状況を正しく分析・把握し、原因を突き止め、解決方法を考えることが、問題解決のためには必要であると考えるからです。
■今後のワクチン供給の見通し
国からのファイザー製ワクチンの供給量は、7月5日と12日の週は合わせて11000箱、19日と26日の週は合わせて16000箱、8月2日以降は2週間ごとにおよそ10000箱となる予定です。
国は、このうち8000箱を「基本計画枠」として、12歳から64歳の人口に応じて市区町村に割り当てる方針ですが、システム上「6週間分の在庫がある」と見做した自治体については、配分するワクチンを今回から1割削減することとしています。
また、今後のワクチン全体の確保量の見通しとしては、7月~9月までの間に、ファイザー製ワクチンが7000万回、モデルナ製が5000万回分、10~11月に、ファイザー製が2000万回、輸入される予定です。
すでに輸入されているファイザー製ワクチン1億回分(前半で述べた通り、うち9000万回分は配布済み)と併せて、2.2億回分、すなわち1.1億人分に接種できる回数が確保されていることになります。(日本の15歳以上人口は、約1億1100万人(令和元年国勢調査)。ただし、ファイザー製ワクチンの公的接種の対象は12歳以上。)
■主な都道府県への、国からの配送量と接種実績
主な都道府県の6月末(6月最終週の配送分まで。その次は7月第2週の配送なので、実質的には7月4日時点と考えて差し支えないと考えられます。)までに、各自治体に国から配送されているファイザー製ワクチンの量(一般接種、医療従事者接種)と接種実績を計算してみたところ、あくまでもデータ上ではありますが、やはり、在庫がかなりあるように見受けられます。
2回目接種用に取ってあるということももちろんあるわけですが、今後、国からの追加の配送もあること等も踏まえれば、「各都道府県内の一部の自治体から『ワクチンが足りない』という主張が出されるのは、実際どういう状況であるのか。」「どうしたら解決できるのか」をそれぞれ検討し、具体的に自治体内で調整をしていただく必要があると思います。
ワクチンには、使用期限(ファイザー製・モデルナ製ワクチンともに、製造日から6か月)があることも踏まえれば、今全国にある在庫が、未使用のまま期限を迎えるということのないように、在庫の移動を迅速・適切に行う必要性は高いと考えます。
なお、下記の自治体を選んだ理由は、感染者数が多かった、都道府県内の首長がワクチン不足について公的に発言をされた、などです。
各自治体への配送量は、これまでは基本的に、自治体の希望量+高齢者人口比を勘案して、決定されています。
〇東京(15歳以上人口:1236万8千人、うち65歳以上高齢者数:320万9千人)
配送量:8787870回分(7月4日時点。以下同じ) 総接種回数:3503604回(7月4日時点。以下同じ) 差:5284266回分
配送量については、下記のように計算。以下同じ。
一般接種 4+20+20+536+2064+1519+1031+1361=6555箱=7669350回分=3834675人分
医療従事者 49+49+19+19+172+172+172+172+132=956箱=1118520回分=559260人分
〇大阪(15歳以上人口:776万6千人、うち65歳以上高齢者数:243万4千人)
配送量:5995080回分 総接種回数:2228920回 差:3766160回分
〇兵庫(15歳以上人口:479万2千人、うち65歳以上高齢者数:159万1千人)
配送量:3842170回分 総接種回数:1709448回 差:2132722回分
〇千葉(15歳以上人口:552万人、うち65歳以上高齢者数:174万3千人)
配送量:3969810回分 総接種回数:1741557回 差:2228253回分
〇山梨(15歳以上人口:71万6千人、うち65歳以上高齢者数:25万人)
配送量:597870回分 総接種回数:276918回 差:320952回分
〇北海道(15歳以上:468万5千人、うち65歳以上高齢者数:167万3千人)
配送量:3491350回分 総接種回数:1345078回 差:2146272回分
〇沖縄(15歳以上人口:120万8千人、うち65歳以上高齢者数:32万2千人)
配送量:870480回分 総接種回数:346960回 差:523520回分
■2回目の接種用に取っておくべき分
在庫の4300万回のうち、2回目の接種分として取っておかなければならない分は、一体どれくらいでしょう?
一般接種(1回目の接種回数)-(2回目の接種回数)=24855310-12055974=12799336回
医療従事者(1回目の接種回数)-(2回目の接種回数)=5977868-4986483=991385回
上記より、6月末時点で2回目の接種として予定されている12799336+991385=13790721回分を、すでに1回目を接種した方のために取っておかなければならないことになります。
したがって、在庫として残っていると考えられる分から、2回目接種のために取っておくべき回数分を引くと、約3000万回分となり、仮に今後全く国からの供給がなされないと仮定しても(そんなことはないのですが)、現状、約1500万人の方が、ファイザー製ワクチンの新規の予約を本来はできるはず、ということになります。
『ワクチン不足』の解決のためには、①都道府県が調整して、在庫のある市町村から、不足している市町村に移す、②市町村が調整して、在庫のある医療機関から、不足している医療機関に移す、といった調整が必要になるわけですが、それについて実効性のあるものとすること、そして、根本的な問題として、在庫のある自治体(あるいは医療機関)と足りなくなる自治体(同)の間に大きな差が生じているのだとすれば、なぜそうなってしまったのか、今後はもう少し、ワクチンの配分方法やデータの取り扱い等について、工夫が必要になってくるだろうと思います。
スピードのみならず、着実・確実に、が肝要かと思います。
◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。





