豊田真由子が解説 感染者数が減少、ワクチン開発・製造国でないイスラエルが成功したポイント

 3度目の緊急事態宣言が出されました。医療逼迫の状況も改善されず、不安が広がります。感染収束の切り札のひとつであるワクチンについて、現状と課題や今後について、海外事例も参考に、考えてみたいと思います。

■イスラエルのワクチン戦略 

 ワクチン開発・製造国でないイスラエルが、新型コロナワクチンの接種率世界一(2回接種を完了した者が、人口の58.5%、5月3日)であり、感染者数が減少し、社会に日常が戻ってきていることが、よく指摘されます。

(※イスラエルの人口は、約923万人(2020年7月イスラエル中央統計局)(日本外務省)で、必要な調達量が少なくて済む、という面はもちろんあります。)

 イスラエルの成功のポイントをまとめると、以下のようなことだと考えます。

①ワクチンを早く調達できたのは、交渉力・政治力・おカネの力

②ワクチン接種が迅速に進んだのは、高度なデジタル化、医療情報を含む個人情報の一元管理と

③いまだ戦時体制にある国民の危機意識・共同体への協力姿勢によるもの

①について…イスラエルの早期ワクチン入手は、ネタニヤフ首相が、ファイザー社アルバート・ブーラCEOと直接十数回交渉し、早期にワクチンを入手するため、高値(相場の2倍)で契約を締結するとともに、副反応等の詳細な情報を、ファイザーに提供することを約束したと言われています(Reuter)。世界全体の公共財とも言えるワクチンを、高値で入手するという方策が望ましいものだとは、私は全く思いませんが、秘訣はそういうことだったという現実はあるかと思います。

②について…イスラエルでは、健康情報を含む個人情報が、IDナンバーで国家に一元管理され、カード一枚に、通院入院歴やアレルギー、健康診断、過去のワクチン接種等の情報が入っています。国民は「そういうものだ」と思っているので、日本のようにプライバシー侵害の問題とはならないとのことです。カードを機械に読み込ませて情報がすべて出てくるため、ワクチン接種会場で、医師による丁寧な問診は必要なく、デジタル処理なので、紙への記入などもなく、迅速に進みます。

③について…イスラエルは、今もアラブ諸国との戦時体制にあり、その苦難の歴史からも、国民は「個人の安全や生存は、国家や共同体あってのこと」ということを、身に染みて理解しています。イスラエルの友人の話や、ジュネーブでの外交現場のせめぎ合いを目にして、そのことを実感しました。イスラエルの国民は、個人の権利と自由の尊重を求める一方、国家や共同体の存続に必要なのであれば、個人の負担は当然と考え、徴兵制度もあります。

 イスラエルのほか、新型コロナ対策で評価されている台湾と韓国も、今もそれぞれ、対中国、対北朝鮮と戦時体制にあるということも大きいと思います。多少、強権的なやり方であっても、あるいは、個人のプライバシー(医療情報、行動履歴等)が侵害されても、国民に対する国家の統制が受け入れられやすいのだと思います。

 新型コロナ対策やワクチン戦略には、それぞれの国家・地域(※台湾は、国家ではないので「地域」)と国民の危機意識の大きさが如実に表れている面があると思います。

■「誰ひとり、取り残さない」

 日本で高齢者のワクチン接種が始まったものの、「予約の電話がつながらない」「慣れないネット予約はできない」という声が多くあります。

 こうしたことは、生命の問題の前に、大したことではないように思われるかもしれませんが、私はここに、政治や行政の重大な姿勢が問われているように思います。

 新型コロナ以前からですが、国を挙げて、デジタル化・ICT化が推進されています(この点でも、日本は世界の中で、遅れてしまっているわけですが、それについては、また別の機会に)。しかしながら、必ずしもすべての方が、先端技術を使いこなせるわけではありません。こうした「デジタル格差」問題を解決するに当たっては、「誰も取り残さない」ことが大切と考えます。もちろん「インターネットは非常に便利」であり、推奨することにより利用する方が増えることはよいことで、引き続きサポートは行われていくべきだと思いますが、強制するのは適切ではないと思います。

 電話のほかに、自治体に対応する窓口を設ける、民間に委託する等も含めサポート体制を作るといったことも必要だと思います。そういったことを「無駄」と切り捨ててしまうのではなく、技術や時代の変わり目において、「行政が担うべき必要なコスト」と考えるべきだと思います。

 イスラエルでも、ネットを使わない人は、予約センターに電話してIDナンバーを伝えると、オペレーターが代わりに予約してくれるシステムを取っています。スタート最初は、ネット予約システムも電話予約センターも混乱して、なかなかつながらなかったという状況だったそうです。

 何事も、すべてが、一挙に円滑には進みません。国民に寄り添いながら、できることを最大限やっていく、ということだと思います。

 ワクチン接種も、入院や治療を待って苦しんでおられる方も、どうか「誰ひとり、取り残さない」--平時でも、危機下でも、守られるべき大切な方針だと思います。

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。

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