保護した猫が我が家の一員になった直後、元飼い主さんが現れて いまは「営業部長」として活躍中

 大阪府河内長野市にある「炭火焼肉 にくまさ 河内長野店」は、手軽な価格で本格的な炭火焼肉が楽しめる人気の焼肉店。店主の岸川禎之さん(55)、容子さん(52)夫婦の飼い猫「もふ」(オス、9歳)は「営業部長」の肩書きを持ち、適度な間合いを保ちつつお客さんを惹きつけている。ある日、店に迷いこみ、看板猫としてデビューしたもふだが、元飼い主さんが現れて…。一体何があった?容子さんに話を聞いた。

  ◇   ◇   ◇

 もふが初めて店の敷地に現れたんは2014年10月半ばころ。店の裏に火起こし場があり、焼けた肉片が残っていることがあるのですが、野良猫がそれを目当てによくやってくるんです。もふもそれでやってきたようです。ただ、よく見ると首輪がついてるし、この子は飼い猫やなと。冬がくるまでになんとかせなあかんと思い、「迷い猫います」と書いたチラシを作って、近所のコンビニやドラッグストア、動物病院などに貼ったんです。

 もふは当初、警戒して私にも近づいてこなかったんですよ。だけど、11月下旬のある日、私が店裏のベンチに腰掛けてたら「なでて」と頭を押し付けてきて、膝の上にピョンと乗ってきたんです。それまで触ることもできへんかったのに、急にです(笑)。だんだん寒くなってきたから、意を決したんやろか。「この人なら猫好きそうやからいけるわ」と見定めたんかもしれません。

 飼い主はいっこうに現れず、かといって、私たちが飼うわけにもいかず…という状況がしばらく続きました。そこで、店の横にある倉庫に寝床を作り、寒い日はそこで寝られるようにしてあげたんです。そのうち、店の入口にきて店内を覗いたりもするようになり、猫好きのお客さんから「白い毛並みがもふもふでかわいい!」と評判に。猫がいるだけで、これまであまり言葉を交わしたことのなかったお客さんとも親密になることができ、看板猫の力ってすごいなと感じました。

 警察にも届けを出していました。結局、飼い主が現れないため、2015年1月下旬、もふは正式に我が家の一員になりました。店の入口横にベッドを置いて、約4メートルのリードを繋ぎ、その範囲内で動き回れるようにしたんです。中には猫が苦手な方もおられますし、前が道路なので危ないですからね。そして、ドラッグストアなどに貼らせてもらっていたチラシを「もうはがしていいですよ」と頼んだ直後のことでした。もふの元飼い主さんが現れたんは。

 2015年1月末、ある女性から「張り紙を見ました。おそらくうちの子かと思うので、一度見せて頂きたいです」とのメッセージが留守番電話に入っていました。我が家の一員として迎えることを決めたばかりだったので、正直、複雑な心境でしたが、いつでもいらしてくださいとお返事しました。

■「シロに間違いないわ。生きててよかった」

 やってきた電話の女性は私と同年代くらい。もふを見ると「シロ?シロやわ!シロちゃん!」と。しかし、もふはパーっと奥へ走り去り、出てきませんでした。女性は「シロに間違いないわ。生きててよかった」と涙ぐみました。

 経緯を伺うと、その女性はうちの店の近くの住宅地に住んでいて、もふは大阪府貝塚市で一人暮らしをしている20代の息子さんと一緒に暮らしていたんだそう。事情があって、息子さんはしばらくその女性宅(=母親の実家)にもふを預けていたところ、慣れない家だったからか、貝塚に帰りたかったのか、脱走。ずっと必死で探していたけど見つからず、諦めかけたときに、ドラッグストアでチラシを見たんだそうです。

 数日後、その息子さんも女性(母親)と一緒に店に来られました。私たちは、仕方ない、これでお別れやなと覚悟してたんですよ。ところが、ワンちゃんなら尻尾を振って大喜びし、感動の再会となったんでしょうけど、当のもふは「僕、もう、ここでいいんやけど…」みたいな目で彼を見つめ、数ヶ月ぶりの再会だったのに、すごくそっけなかったんです。

 息子さんにとっては、それが相当ショックだったようで…。お母さんも「ここに置いてもらう方がこの子にとってはいいのかも。私たちを思い出してもらうには、これから何度もここに足を運ばんとね」と言われ、2人はもふの幸せを一番に考えた末、「ここで暮らした方がいい」と、私たちに譲渡する決断をされたんです。

 2人が帰られるとき、私は「いつでも会いにきてください」とお伝えしました。ただ、そのときの息子さんの肩を落とした寂しそうな背中は今も忘れられません。思い出すと涙が出そうになります。

 その後、彼は何度かもふに会いにきてくれました。ただ、数年前、「東京へ引っ越すことになり、なかなか会えなくなりますが、これからもよろしくお願いします」と挨拶に来られて以来、お会いしていません。いつかまた、彼が会いに来られるときのためにも、私たちはもふを絶対、幸せにしなければ。

 もふの接客ぶりは、押しすぎず引きすぎずというんでしょうか。この人苦手やなと思ったら、あからさまに嫌がらず寝たふりしますし、猫好きの常連客には自分から膝の上に乗ってメロメロにします。同じ猫好きの人でも、体をなで回してくるようなしつこいタイプには無愛想ですが、猫好き感を物静かに醸し出している人のそばには、そっと寄り添います。お客さんとの間合いのとり方がとても上手な「営業部長」なんです(笑)。

(まいどなニュース特約・西松 宏)

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