聴覚障害者はコミュニケーションの先生! 彼らと日本の企業を変えるために頑張る人たち

あなたの職場には、音が聞こえにくい、あるいは聞こえないという聴覚障害者がいるだろうか。筆者が以前いた会社では、意思疎通がうまくいかなかった聴覚障害者が結局退職、という出来事があった。いったい何がベストなやり方だったのか。そもそもうまくいく方法があるのか。株式会社サイレントボイス取締役で、NPO法人サイレントボイス理事の桜井夏輝さんに聞いた。

■聴覚障害者とフラットな関係を

過去には、聴覚障害者の雇用が積極的に行われた時期があったという。一定数以上の従業員を抱える企業は、ある割合で障害者を雇用する責任がある。特に重度難聴のある聴覚障害者など、重度身体障害者は1人でも2人雇用したとみなされる。雇用者にとっては「障害といっても聞こえにくいだけで、ポイントが稼げるうえに人件費も抑えられる」と、雇いやすいと思われたのだ。

しかし実際の現場では、聴覚障害者が孤立しがちで病んでしまうことも。また日本でよくあるのが、「障害者にこの仕事をやっていただく」と、お客さま扱いする風土と、過度な遠慮という。高学歴の聴覚障害者が企業に就職したら、書類の押印チェックばかりを長年させられた、などという事例もある。

桜井さんは「解決策のひとつとして、早期に適切な第三者を間に入れること」という。つまり双方の事情や立場、思いを理解して両者に伝え、調整できる人だ。

さらに「たとえば、障害者の雇用環境を示すわかりやすい指標と、対処方法があれば。『うちの会社は今この状態だから、改善して次のレベルに進むには、こう対処すればいい』という具合です。それが解決への道筋になる」と可能性を語る。

そのためには、「聴者(聞こえる人)と聴覚障害者が互いを認め合い、フラットな関係を築くこと。そこに健全な雇用が実現します」という。

■聴覚障害者は「伝わるコミュニケーション」の達人

 ここで少し、聴覚障害者の見方を変えてみよう。「コミュニケーションの達人」と見るのはどうか。自分の声が聞こえづらい彼らは、当然スムーズな発音が容易ではない。そのため相手の表情や仕草から感情を読み取り、ジェスチャーで「相手に伝わるコミュニケーション」の訓練を、生まれてからずっと行ってきた。

聴者同士が聴覚障害者と似た状態になり、意思疎通を図るという研修プログラムがある。桜井さんの所属するサイレントボイスの「無言語(C)コミュニケーション」研修では、耳栓をし、口パクも筆談も禁止。表情とジェスチャーだけで、自己紹介などのワークを行う。すると「体の正面を相手に向け、目を見る」「表情で感情を表す」といったコミュニケーションの原則が、自然にやれる。研修後は人間関係が好転したなど、喜びの声が多いそうだ。

「私の周りの聴覚障害者は、ただ情報を知るだけでなく、その背景まで知ることで共感のコミュニケーションの力を伸ばしてきた人たち」という桜井さん。現代はコミュニケーション力や共感力に悩む人も少なくない。彼らから学ぶことはたくさんありそうだ。

マイナス面にばかり目を向けるのではなく、ステキな面を評価すること。ここが、互いにフラットな関係を築く第一歩だ。

冒頭に紹介した筆者の経験は、相手の聴覚障害者にどうすれば仕事を覚えてもらうか、そればかりで終わってしまった。桜井さんは「『聴覚障害者を救う』のではなく、『彼らと一緒に日本の企業を変えていく』のが私の思いであり、サイレントボイスのミッションです」と語った。

(まいどなニュース特約・國松 珠実)

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