切断した足に「ブタみたい」…義足のプロダンサー・大前光市が、子どもたちの“暴言”に一緒に笑う理由

 3年前のリオ・パラリンピックの閉会式で4連続バック転を決めて世界を驚かせ、その年のNHK紅白歌合戦で歌手・平井堅さんとも共演した「義足のプロダンサー」大前光市さん。舞台や講演の合間を縫って、各地で子ども向けワークショップを開いています。「なぜか子ども受けが良くて」と語るように、もみくちゃにされながら言葉通り「全身で」接し、子ども故の無邪気な残酷さで“暴言”を投げかけられても一緒に笑う-。そこに込めた思いを聞きました。

 先日、神戸市内で開かれたワークショップ。「他の人がしない動きで進もう」と声を掛けると、20人ほどの子どもたちは大喜び。両手指とつま先で進む子、回転やジャンプ、ブリッジに頬杖…。大前さんはほんの小さな違いも見逃さず、順番や方向を間違ったり「うまく馴染めず」指をくわえ背中でずりばいしたりする子も「こ、これは新しい!」「みんな見て!」と拍手。さらに、義足を外した脚に右手を置き、腕と体の間の「輪」に頭をくぐらせる…など自らのダンスと同じ表現方法を“伝授”すると、子どもたちは耳や足など体を駆使して格闘していきます。

 「ダンスや表現に正解や『やったらダメ』なことってないんです。自分で考えた動きならどんなものでも『認められるんだ』と感じて欲しい」と大前さん。ただ、そう強く思うようになったのは「左足を失ってから」と話します。

 大学でクラシックバレエを専攻し、プロダンサーとして歩み始めた24歳のとき、車にはねられ左足の膝から下を切断。義足で復帰を目指しましたが、練習を重ねるほど「昔の自分には戻れない」と突き付けられます。オーディションでは「今の君は必要ない」と言われ、バレエ教室では「痛々しいからその脚で踊らないで」。職場もクビになり「何の価値もない、這って歩く粗大ゴミだ」と自分をさげすみました。

 それでも夢は諦められず、骨格や筋肉について学び、武道やヨガ、新体操など幅広いジャンルの動きを取り入れ、少しずつ「型通りではない、自分だけの踊り」が見えてくるように。2年前からはバレエの枠を超えた新たな表現にも挑み始め、40歳になった今も「進化」を続けています。

 「あがいていたころは、セルフイメージもどん底だった。でも、考え方や見方を変えれば、欠点も長所になる。自分は今幸せ。親御さんも、つい外れたことを直そうとしますが、その違いこそが魅力なんだと気付いてもらえたら」と話します。

 そんなワークショップの最中、義足を外した大前さんの足を見た小学1年の男の子が「なんか、ブタみたいやなあ」と発言。凍り付く大人たちをよそに、大前さんは「そっか~、ブタみたいかぁ」と笑い、何事も無かったかのようにレッスンを続けました。

 「僕の足は義足を付けるため中心がへこんでいるから、そんな風に見えたかもしれないですね(笑)言われたことも忘れてました」と大前さん。受け流した理由を「その言葉を取り上げて使わないように叱る“言葉狩り”みたいなことはしたくない。そもそも、大人と違って何の偏見もなく、義足を見たこともない子どもが、切断した足や義足を奇妙に感じたり、『なんで足が無いんだろう』と思ったりするのは、すごく当たり前のこと」と話します。

 「だけど、家族や身近なところに義足の人がいたら、義足や足を『変』とは感じないでしょう?むしろ『当たり前』になる。だから、僕は外に出て『自然なこと』になるように、子どもたちとの接触頻度を上げる。それが僕の仕事だと思ってるんです」

 「とはいえ、言葉を言われたのが義足になりたてで毎日どん底だった“大前青年”だったら…こうは思えなかったかな。例えば子ども同士、学校などでそれを言われ続けると大きな傷になるかもしれない」と大前さん。一方で「めちゃくちゃ仲が良い相手なら何でもアリ。障害者の友達とは、お互いの障害すらもネタにしてますもん」とも。

 そして、こう話してくれました。

 「『言葉そのもの』ではなく、大切なのはその言葉がどういう関係性で、どういう気持ちで、どういう文脈で使われたか。『なんで足が無いの?』とかもしょっちゅう聞かれますが、僕は子ども相手に怒ったり傷付いたりはしないですし、きっと僕と仲良くなった気がして普通は言えないことも言ってしまったのかも。大切なのは『その人を深く理解すること』。その上でなら一見失礼な言葉に見えても、受け取り方は全然違いますから」

(まいどなニュース・広畑 千春)

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