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野球部創設で若手人材確保…建設会社が「夢追えるステージ」を提供する理由

 厳しい経済情勢や合理化の荒波にもまれ、名門実業団チームが次々と解散し、クラブチーム化が進む社会人野球界にあって、あえて社内に野球部を創設した会社が神戸市西区にある。総合建設業「関西タクト」(谷岡哲広社長)。高い守備力が持ち味の内野手としてオリックスや阪神など5球団で活躍した元プロ野球選手・斉藤秀光さん(44)を監督に迎え、ゼロから出発したチームを訪ねた。

 関西タクトは2012年創業。若い会社ながら関西地方を中心に業績を伸ばしてきたが、喫緊の課題が従業員の確保だった。管理職の平均年齢は55歳を超え「キツイ、厳しい、汚い、いわゆる3K職場という印象が強い仕事。若い子はほとんど来ないし、来てもすぐやめてしまっていた」と谷岡さん。そこで目を付けたのが野球だった。

 中学の硬式野球チームの指導経験もある谷岡さんは「野球は生活面も含めた指導が厳しく、うちの業界にはぴったり。他方、選手は野球ができる場がどんどん減っている」と指摘。「一人前の社会人としてきっちり業務を身に付けながら夢を追える環境を作ることは、必ず企業の魅力や成長につながる」とし、昨年、知人を介して斉藤さんに監督就任を要請。会議室を改装して食堂を新設し、従業員寮にはトレーニングマシンを備え、屋内練習場も建設予定という。

 斉藤さんは「最初は半信半疑でした。でも、野球を続けたくても続けられない子が大勢いる。大きなチャレンジだし、チャンスだと思った」と単身神戸へ。旧知の大学監督らを通じてリクルートをし、関東・中部地方出身の5人が入社した。うち1人は渡米したが、来春は約20人を採用し、20年2月の加盟申請、7月ごろの大会参加を目指す。

 斉藤さん自身、横浜商科大学高を卒業後18歳でオリックスに入団した時、プロ初の春季キャンプでいきなり壁にぶつかった。先輩たちとの実力差を思い知らされ、体重は10キロ近く痩せた。「どうやったらこの世界で生きていけるかばかり考え、必死で人間関係の壁や技術の壁を越えてきた。今の子は知識も豊富で体も大きい。後は自分で乗り越える力を鍛え、プロという夢に近づけるようにしたい」と語る。

 今、選手らは午後5時ごろまで現場で働き、会社で夕食を取った後、近くの少年野球チームのグラウンドを借りて、約2時間の練習に励む。決して恵まれた環境とは言えないが、選手らの意識は高い。佐藤雄大投手(23)は大学1年から先発として活躍していたが、その後イップスを発症。最後の試合も投げられなかった。「だからこそ、まだ伸びしろがあると信じたい。終わりたくない」。桐蔭横浜大で全国大会出場経験もある渡辺太樹主将(22)は「もう野球をするのは無理だと思っていたが、チャンスをもらった。現場の業務は正直しんどいけれど、来年は大勢新人も入るし、仕事も野球もしっかりやりたい」と力を込める。

 とはいえ費用もかさみ、社内でも「うちのような中小企業が、今やるべきなのか」(幹部)と懐疑的な声もある。だが、それを変えるのも「結果」だ。夢で終わるのか、それとも新たな企業スポーツの可能性をひらけるのか。目標は「日本選手権への出場」と斉藤さん。道のりはまだ、始まったばかりだ。

(まいどなニュース・広畑 千春)

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