【京大・安部教授コラム】フッ化水素は“使いたくない薬品” 輸出規制で注目の物質を説明

 「科学よもやま話=6=」

 先日、祇園祭の鉾(ほこ)を引く機会に今年も恵まれました。山鉾巡行をテレビなどで観られた方も多いと思いますが、鉾には巨大な木の車輪がついており、これを60名程度で綱を引いて動かします。1000年前ではハイテクだったのでしょうが、いまではひたすら体力勝負のローテクを堪能しました。

 一方、現代の自動車はハイテクの象徴である人工知能AIを駆使して、運転の自動化に向かっています。これができるのも半導体がもう限界と言われつつも進化しているおかげです。電子をよく通す金属、まったく通さない絶縁体、これの中間が半導体です。

 半導体の中でも生活の中で最もよく使われているのはシリコンです。このシリコン半導体を使って、人間で言うと頭脳の部分(集積回路)を作ります。集積回路はナノテクにより年々向上していますので、最近のスマホは10年前のパソコンと同程度の頭脳と言われています。

 さて、最近、日本と韓国の問題で話題になっているフッ化水素は、頭脳部分を作るために必要な材料ですが、化学系のぼくらでもフッ化水素は使いたくない薬品の一つです。

 フッ化水素を水に溶かしたフッ酸は半導体の洗浄やエッチングする溶液ですが、これが手についたら、皮膚から入っていき、骨を溶かします。骨を溶かして、フッ化カルシウムになります。実はこのフッ化カルシウムがフッ化水素を作るときの原料で中国に多くあります。

 レアメタルを多くもつ中国ですが、フッ化水素の原料も実は抑えられています。いろんなものを溶かすフッ酸ですので、半導体デバイスを作る工程で余分なここを溶かしたい(エッチング)ときに用いられます。溶液を使うときがウエットエッチングで気体のフッ化水素ガスを使うときは、ドライエッチングとなります。

 高性能な半導体を作るためには、いかに不純物を除去するかにかかってきます。なので、高純度なフッ化水素が必要になってくるのですが、質の高いものづくりは日本の得意技です。

 ところで、なんでもかんでもエッチングされると困りますので、エッチングされないようにするのがレジスト材料です。レジストは文字通り、抵抗という意味なので、エッチングされないようにする役目があります。余分な脂肪だけをエッチングする薬品が欲しいです。

 ◆安部武志(あべ・たけし)2009年、40歳で京都大学工学部研究科教授に就任。電池技術委員会賞、炭素材料学会学術賞などを受賞。京大工学部卒、大阪府出身、50歳。趣味はゴルフ。

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