最近よく聞く議決権行使の助言会社って何者? 米国発2社が市場ほぼ独占

 日産自動車が25日に開く株主総会で議案になっている、西川広人社長の取締役再任について、議決権行使の助言会社2社が投資家に反対するよう、すすめている。日産自動車にとって「コーポレートガバナンス」(企業統治)の機能不全が何年も続いた過去と決別するのなら、元社長であるカルロス・ゴーン被告の側近だった西川氏の再任は適切でない……というのが彼らの主張という。ところで気になるのは、この“上から目線”で西川氏の不適任を説く「議決権行使の助言会社」とは何者か、ということだろう。実は近年、株式市場で存在感を増している。

 右肩上がりで株価が上がる時代なら、年金基金や保険会社などの機関投資家は単に株式を買って、そのまま持っているだけで資産を増やすことができた。しかし上場会社の不正が発覚したり、業績悪化や経営破綻で投資家が損失を受けたりすると、次第に高まるのが「この経営体制で本当に大丈夫なの?」という企業統治への不信感だ。株主総会で最終決定する役員人事で、以前は会社の提案に漫然と賛成票や白紙委任状を提出していた投資家も、その影響力を行使すべきだという機運が、この10年ほどで高まった。「スチュワードシップ・コード」(機関投資家の行動規範)の名のもとで金融庁も、他人からお金を預かって株を買っている機関投資家に対して、年金や保険の受益者のために議決権を行使するよう求めている。どういった議決権を行使したか自主的に発表する機関投資家も増えてきた。

 とはいえ機関投資家の多くが日本株を運用する際に目指すのは、東証株価指数(TOPIX)に連動させること。つまり最大2000銘柄を超える株式を保有するというわけだ。その1つ1つの株主総会の議案をチェックして、上場会社を訪問したり電話をかけたりして議案の真意を問いただし、社内の会議を開いて賛成や反対について決定するというのは難しい。さらに誰かに議決権行使の妥当性、正しさも保証してもらいたい。そこで議決権行使の助言会社という専門業社が登場する。機関投資家は助言会社にお金を払って、株主総会での議案に賛成すべきか反対すべきか、というリポートを取り寄せる。そのほうが自らの判断だけで議決権を行使するよりも安上がりだし、専門業社の意見だから判断も正しかろうというわけだ。

 議決権行使の助言会社は大手2社で事実上、世界的に市場を独占しているとみられている。支配的立場を持つISS(インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシズ)と、2番手のグラスルイスという会社で、いずれも米国発祥だ。企業統治という考え方を米国から輸入した日本では、議決権行使に関連するビジネスも米国から取り入れた形だ。10年ほど前に国内にも議決権行使の助言会社を立ち上げる動きがあったが、国内大手の機関投資家が1985年創業の「老舗」であるISSなどに流れたことや、そもそも国内人材が不足していたことでカバーできる銘柄数が少なかったことなどもあり、うまくいかなかったようだ。

 株主総会シーズンになると、大口の投資家の動きを左右する助言会社の意見が話題になるケースは増えている。ISSは2017年に、自己資本利益率(ROE)が5期連続で5%を下回っていた会社のトップ選任には一律反対する方針を示したことで話題になった。結果、いずれも会社提案通りトップが選任されたが、一部の会社でトップ選任議案には賛成票が減るという影響があった。今年は日産自動車のほかにも、お家騒動が起きているLIXILグループの取締役選任について、会社提案の10人のうち8人にISSが賛成。株主が提案した8人のうち、前最高経営責任者(CEO)の瀬戸欣哉氏には反対をすすめたのが話題になっている。助言会社の影響力がどの程度か見定めるうえでも、25日の株主総会は注目かもしれない。

 ただ議決権行使の助言会社に反論する会社も増えている。今年の事例であれば、帝人の子会社で東証1部に上場するインフォコムの社外取締役1人について、インフォコムの取引銀行が傘下にある三菱UFJフィナンシャル・グループに所属した経験があり、独立性が認められないとISSは指摘した。これに対してインフォコムは、その社外取締役が所属したのは三菱UFJFGの前身である東京銀行であり、しかも1989年7月までと30年以上も前の話だと反論した。さすがに会社側の言い分に理があるように見える。13日に開催した株主総会では、候補者全員が取締役として再任した。

 議決権行使の助言会社が実質2社と少なく、それは本当に洗練された意見なのかという指摘は多い。さらに彼らの実務の体制などが明かされていないことを疑問視する声も出ている。日本の事情に疎い海外の投資家ほど、助言会社の意見をそのまま議決権行使に取り入れているとの見方もある。すでに登録制や資格制にするといった議論が欧州を中心に出ているが、議決権行使の助言会社の影響力が強まるとともに、あり方に対する関心も高まるだろう。

(経済ジャーナリスト・山本学)

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