吉行和子 当初は女優ではなく、衣装係志望だった…83歳の今「まだまだ道半ば」

 現在83歳、女優生活60年を越える超ベテラン。それでも吉行和子は断言する。「まだまだ道半ば。納得したことだって一度もないのよ」。研究生として劇団民藝の門を叩いたのは1954年。当初は女優ではなく衣装係志望だった。それから65年。昭和、平成と女優の道を歩み続け、新時代・令和も女優・吉行和子として歩み続ける構えだ。一つの仕事を成し遂げるには何が必要なのだろうか。そのヒントが吉行の口から語られる。

 ターニングポイントは、女優デビュー作となった舞台「アンネの日記」にある。体が弱く、読書ばかりしていた幼少期。小学校時代、あまりに喋らない吉行を見かねた担任教師が翌日の授業で挙手して発言させるべく、出題する問題を事前に教えてくれた。しかし「嫌だなぁと思うけれど、次の日に先生がその問題を出して私を見るから手を挙げるじゃない。そうしたら緊張のあまり失神しちゃったの」。人前に出て何かをやるなどもってのほかだった。

 にもかかわらず1957年、劇団民藝の舞台「アンネの日記」で主演デビューしてしまう。理由は、本番当日にアンネ役の主演女優が風邪で声が出なくなったから。普通ならば休演となるはずが、稽古に参加していた吉行がセリフを覚えていたことから、代役に抜擢された。「劇団ですから先輩から『やれ!』と言われたら断れない。でもいざやってみると、普段は顔も直視できなかった大先輩が、役を通して見ると突然何でもないオジサンやオバサンに見えた。なぜ私は平気でこの人の顔を見て喋れているの?と。とても不思議で面白くて。それが私の女優人生の始まり」。ハプニングがその後の道を決める契機に。

 女優業の魅力について聞くと「楽しいわけじゃないんですよ。大変だし、まだまだ道半ば。納得したことだって一度もない。でも全然飽きないんです。それは私が言われたことがなかなかできないタイプだから。できないということは、やることが沢山残っているということ。だから飽きない」。真っ白なキャンバスを何度も塗り直すように。それが原動力となる。

 役者業は求められて初めて成立する仕事。「ある人から『芝居は下手だけれど、人間的にはなかなかいい』と言われたことがある。そういう意味では人の出会いに恵まれていたのかも」と笑う。その一方で鈍感力も強いそうで「B型なので人の言うことが気にならない!相手に気を使わないからストレスもない。私は演技が下手だなぁと思うことばかりだけど、必要以上に落ち込まない。その結果は神頼み」とサバサバしている。

 加齢とともに肉体の衰えも感じているが、ストイックになり過ぎないのがちょうどいい。「歩けなくなったら役者はできないから、歩くことを意識しているけれど、かといってジムに通うわけでもない。近所で一番遠いコンビニに行く程度。あとはデパートを2時間くらいウロウロするだけ」と無理しない生活スタイルをキープ。外出先でもほとんど変装せず「バスにも乗るし、地下鉄にも乗る。誰も私になんか気づきません。鈍感力と溶け込み力で半世紀以上やってきました。でも友人の冨士真奈美と歩くと必ず気づかれる。あの人は派手だからねぇ」とどこまでもナチュラルだ。

 ただし好奇心の面では平均的80歳代を上回っていると自負。パソコンやSNSはできないが、面白そうと始めたLINE歴は約4年。こだわりもあって「スタンプは入れなければ気が済まないので沢山もっています。その時のやり取りに適したものを使う」と感性は若い。令和元年5月18日に主演映画『雪子さんの足音』が公開された。新時代も心境は変わらずで「誰かが私に役をくだされば、それにしっかりと応えられるようにセリフを覚えて、歩くようにする。それが将来の希望」と生涯現役宣言。これからも様々なキャラクターを演じ分けていく。(まいどなニュース特約・石井隼人)

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