「ウィー・アー・ノット・妖怪!」レディー・ガガみたいに乱舞する彼女たちは…

 公園の池の中から突然現れる“キモカワ”カッパ像が人気の兵庫県福崎町、辻川山公園で、ド派手な着物に身を包んだ謎のマダムたちが、踊りながら、公園にいる妖怪たちを紹介する--。そんなインバウンド向けプロモーション動画が、2019年5月11日、ユーチューブで公開された。彼女たちは何者なのか。

 福崎町は『遠野物語』『妖怪談義』などの著書がある民俗学者、柳田國男の出身地。姫路市の北に位置する、人口2万人弱ののどかな町だ。

 そんな町でここ数年、じわじわと注目を集めているのが、独自路線を行く妖怪コンテンツだ。柳田の生家がある辻川山公園内には、前述のカッパ像のほか、小屋から飛び出すてんぐ像、動かないが細部まで作り込まれた数体の妖怪像が設置されている。町内各地のお店にも、愛きょうはあるがどこか怖い妖怪像のベンチが置かれ、観光客らを楽しませている。

 今回、公開された動画には、色とりどり着物にウィッグ、サングラス姿の女性4人が出演。あちこちに妖怪像が置かれた辻川山公園内で、扇子を片手にディスコダンスを踊り狂う。

 彼女たちは語らない。画面には、福崎町が「妖怪のまち」であることを説明するシンプルな英語のテロップが流れる。チーム名は、「ZIGGY B(ジギービー)」というようだ。動画の長さは1分45秒。動画が終盤にさしかかったころ、こんなテロップが出てきた。

 「Everyone is over 60,but we’re not yokai.」

 なんと、メンバーの年齢は「オーバー60」とな!軽やかにステップを踏む彼女たちの姿は、画面に登場する妖怪たちと相まって、スタイリッシュな印象すら抱く。わけが分からないが、すごいな……。ということで、5月下旬、福崎町内の練習場所を訪ねた。

 そこには、動画で見たいでたちの4人がいた。リーダーの百合ちゃん(62)、あっちゃん(60)、かずちゃん(59)、KEIちゃん(63)だ。かずちゃんはオーバー60ではないが、この際問題あるまい。ド派手な着物に目がチカチカする。

 チーム名「ZIGGY B」は、ざっくり言うと、「イケてるばあば」とのこと。2018年9月ごろに結成された。きっかけは、百合ちゃんが18年3月、ビールを飲みながら見ていたテレビ番組に、お隣の加西市で活動する同世代のダンスチームが出演したことだ。

 「キャップをかぶって、かっこよく踊ってるわと思って見ていたら、60超えたおばちゃんらやったんですよ。驚きました」(百合ちゃん)

 「自分もできるかもしれん」。そう思った百合ちゃんは、チームを指導する加西市のヒップホップダンスサークル「DO-it」代表でダンサー、HIROさん(45)に連絡を取った。HIROさんは、公務員の仕事のかたわら、障害者からお年寄りまで、基本的に無償でダンスを教えている。そして百合ちゃんは、サークルが行う介護予防のダンスワークショップに参加した。

 ステップに挑戦し、「面白いやん」と感じた百合ちゃん。今度はメンバーを集めて、自分が住む福崎町でもHIROさんに指導をしてもらおうと、友人、知人に声をかけ始めた。呼びかけに他の3人が賛同し、ZIGGY Bが誕生したのだ。

 HIROさんの指導で、「ランニングマン」などの基本ステップから始めた4人。踊るのは楽しく、ステップを踏んでいると、悩まされていたひざや腰などの痛みが改善されていった。地元のイベントなどにも出演し、ダンスを楽しんでいたところ、19年1月、HIROさんから「着物を着て踊りませんか。レディー・ガガみたいな感じで」と提案された。

 「彼女たちはノリがいい。ディスコダンスで妖怪の町をPRすれば面白いな、と思いました」とHIROさん。「今どきの60代は、(体が動きにくくなり)あきらめている人もいるが、ディスコ世代でもある。彼女たちには、地域のそんな人たちを引っ張る存在になってほしい」。

 4人は、HIROさんの提案に乗った。HIROさんは、ディスコダンスをベースに、小道具の扇子が生きるようWAACK(ワック、しなやかな腕の動きなどが特徴的なダンス)を取り入れた振付を考えた。

 「振付の練習では、まず足の形を覚えて、次は手の形を覚えて。それから組み合わせてと、一つずつ覚えていきました」とKEIちゃん。HIROさんから「もっと妖怪みたいに!」と発破をかけられる日々が続いたが、4人は「楽しかった」と振り返る。

 衣装は、古い着物をリメイクして制作。初めはおとなしめのテイストだったが、LINEで相談するうちに物足りなくなり、ラメなどのキラキラパーツを盛っていった。

 そして19年4月、桜の時期を狙って、辻川山公園で動画を撮影。ウィッグが脱げたり、靴がはまったりするハプニングはあったものの、楽しく踊れたという。動画の出来にはおおむね満足しており、周りの人たちからも「元気が出る」などと好評だ。

 ふと、動画のテロップ「but we’re not yokai.」についてどう思うか聞いてみた。すると、「ほんまは妖怪の親せきでかまへんで。(カッパの)ガジロウのおばちゃんという感じでも。その方がはっちゃけられるしね」(百合ちゃん)と返ってきた。さすが、人生経験の豊富さゆえか、懐が深い。格好いいわ。

 ZIGGY Bは、現時点では町は非公認。HIROさんは「住民らの勝手なPR活動ではありますが、妖怪はグローバルなコンテンツ。彼女たちには、ガジロウ並みに『会いに行きたい』と思ってもらえるキャラクターになってもらいたい。世界に通用するババアになってほしい」と語る。ゆくゆくは特撮風のガジロウ着ぐるみとのコラボレーションも、と期待が膨らむ。

 そんなHIROさんの思惑を知ってか知らずか、メンバーたちも「今さらなくすものもないので、楽しければいい。シニアダンサーをもっと増やしたい」と前向きだ。HIROさんは、次作では「バラバラなパラパラダンス」を考えているという。播磨のおばちゃんたちがにぎやかに送る、スタイリッシュなダンス動画は、世界に届くのか。(まいどなニュース特約・南文枝)

  ◇  ◇

◆ユーチューブで公開されている動画「wellcome to yokai town」

https://www.youtube.com/watch?v=Mpc6MmwJuYI&feature=youtu.be&fbclid=IwAR3GeP6w8FMkJMQNhhsyyvaN72PlI-L0mP3xGVpiyeHzNYZJW8jYAEoIHw0

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