「終戦の日」に検証 戦後ゼロ年から復活した娯楽文化~ゴジラのテーマ曲も誕生

終戦直後の映画や音楽を語る佐藤利明氏=東京・荻窪ベルベットサン
日本の喜劇王・エノケンこと榎本健一
真夏の闇夜に都会のビルから顔を出すゴジラ。そのテーマ曲のルーツは終戦直後にあった=東京・新宿歌舞伎町
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 終戦の日を迎えた。平成最後となる夏、改めて日本の戦後史が検証されている。1945年の敗戦から52年まで続いたGHQ統治下において、混乱期の中から芽吹いた日本の大衆文化から今、学ぶべきものがあるのではないか。戦後73年の夏、そんなスタンスに立つ娯楽映画研究家・佐藤利明氏に話を聞いた。

 佐藤氏は「ザッツ・ニッポン・エンタテインメント!」と題し、戦前から戦後にかけての映画や音楽を紹介するトークイベントを開催している。会場で披露される貴重な映像と音声。その年代やジャンルは幅広いが、ここではGHQ統治下の約7年間に公開された作品をたどってみよう。

 「戦後ゼロ年」となる45年から娯楽文化はよみがえった。“エノケン”こと榎本健一が歌う「いろはにほへとソング」は敗戦から3か月後の11月22日に公開された映画「歌へ!太陽」の挿入歌。佐藤氏は「戦争が終わった解放感にあふれています。まだGHQの意向もそれほど強くなかった時期でした」と解説した。45年12月27日公開の映画「東京五人男」では古川ロッパの芸達者ぶりが新鮮だ。

 47~52年に25本の映画に出演した笠置シズ子の映像も。“おっさん、おっさん、これナンボ”“わて、ほんまによういわんわ”のフレーズで知られる「買物ブギー」(50年発売)について、佐藤氏は「ブギというよりラップですね」と絶賛。クライマックスで“おっさん!おっさん!おっさん!おっさん!”と一気呵成(かせい)にたたみかけるソウルフルなグルーブ感は今聴いてもゾクゾクする。

 また当時の三木鶏郎の冗談音楽や服部良一の名曲も斬新だった。

 佐藤氏は「軍の意向で自由にジャズも聴けなくなった戦時中から一転、昭和20年代前半の作品には、押さえつけられてきた庶民の解放感にあふれています。やりたいことがやれた時代。アメリカ文化を取り入れながら、日本独自のサウンドを作りあげた。この時代は、敗戦後の貧しい焼け野原のイメージだけでなく、新しい表現をやっていこうというパワーとセンスの良さ、表現力の豊かさがあります」と説明した。

 興味深い発見も。神武景気で日本の高度経済成長が始まったとされる54年公開の東宝映画「ゴジラ」。伊福部昭作曲による、あの有名なテーマ曲はGHQ統治下だった48年12月14日に公開された柳家金語楼主演の松竹映画「社長と女店員」で既に使われていた。さらにルーツは11か月前にさかのぼる。佐藤氏は「伊福部が戦時中から温めていてメロディーで、昭和23年1月に発表された純音楽『ヴァイオリンと管弦楽のための協奏曲』の旋律だった」と指摘した。

 佐藤氏は高度成長期の真っただ中にあった63年生まれだが、「百聞は一見にしかず。作品に触れることで、その時代の空気感を味わえる。当時の“当たり前”が現在はそうじゃないという発見も多く、今を客観化できる」と時代を超えた魅力を指摘。ソフト化されていない作品も多いが、イベントや旧作を上映する名画座、CS放送などで触れる機会を探してみるのも一興だ。(デイリースポーツ・北村泰介)

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