ハリルの秘密兵器・ブルガリアの加藤恒平 代表目指すからこそ東欧挑戦

 昨年9月29日に東京都内で行われたW杯アジア最終予選の日本代表メンバー発表会見で、バヒド・ハリルホジッチ監督(64)が意外な選手について言及した。「ブルガリアの“カトウ”も見てきた」-。16年からブルガリア1部ベロエ・スタラ・ザゴラでプレーするMF加藤恒平(27)は球際に強く、ボール奪取能力に優れた“ハリル好み”のボランチ。J2町田を退団後、東欧のクラブを渡り歩いた異色の経歴を持つ加藤に日本代表への思いなどを聞いた。

 その知らせを、加藤は家族で作るグループLINEで知ったという。日本代表のハリルホジッチ監督が自分の名前を口にした-。

 「驚きではありました。ブルガリアでやっている選手まで見てくれているんだなと。今までなかったことなので、ありがたいと思いました」

 喜びの言葉を並べながら一方で地に足はしっかりと着けている。

 「(日本代表に)選ばれて(名前を)呼ばれたいというのが本音です。僕としては選ばれるか選ばれないかだけ。何かが変わるわけではない。今まで通り、やってきたことを続けていくしかない」

 ブルガリア1部ベロエ・スタラ・ザゴラではここまで19試合中15試合に出場して1得点。豊富な運動量と球際の強さが持ち味で、身長173センチとボランチとしては小柄ながら、鋭い出足で大柄な相手にも果敢に飛び込みボールを刈り取る。

 「ボールを奪い取ることには自信を持っています。欧州でボランチをやるならそこが最低条件。“戦える”選手というのは監督が無条件で評価してくれる。(試合に)使われやすいタイプなのかな」

 自らをそう分析する加藤だが、千葉の下部組織時代にはサイドハーフでプレーする技巧派MFだった。転機となったのは立命大3年だった10年夏のアルゼンチン留学。現地で「お前は真ん中でやった方がいい」とボランチ転向を言い渡され、初めて中盤の底でプレーし、その楽しさを知った。負傷の影響もあって2カ月ほどで帰国したが、翌11年夏、プロ入りを目指して再びアルゼンチンへ飛んだ。

 「ずっと海外に行きたくて、将来的にはスペインでやりたいと思っていた。でもいきなりスペインは無理だと思って、同じスペイン語圏で欧州に多く選手を輸出しているアルゼンチンを選びました」

 壮大な夢を抱えて踏んだ“南米のパリ”ブエノスアイレスの地。だが、そこには「人生で一番つらかった時期」が待ち受けていた。

 現地では『セファール』と呼ばれる施設で生活した。未契約の“浪人”選手が集まって混成チームを結成し、クラブチームと試合を重ねながら自分を売り込み、契約を勝ち取るという厳しい世界。加藤は4部サカスチバスの監督から高評価を得て、何とか契約にこぎつけた。

 だが、クラブの会長からは「日本人に金など払えない」とばかりに3~4カ月間無給が続いた。主将の進言もあり、ようやく渡された月給は日本円で5、6000円ほど。試合出場に必要な就労ビザすら下りない現実がさらなる絶望感を募らせた。

 実はクラブ側は費用も掛かるビザ発給に積極的な働き掛けを行っていなかったという。説明は二転三転し「明日出るから」が何度も続いた。半年以上も実戦から遠ざかり、危機感を抱いた加藤はやむなく帰国を決意した。

 「サッカー(=試合)さえできれば、正直どんなことがあっても大丈夫。だからサッカーができないと、どんなに奇麗な街を見ても奇麗と感じないし、サッカーができれば、そんなに奇麗じゃないところでも『いいところだな』と感じられる」

 海外でのプレーを諦め切れず、J2町田を経て13年にはモンテネグロ1部ルダル・プリェヴリャに入団した。

 「ボールはチームによって空気圧は違うし、観客は20~30人の時もある。ピッチは天然芝と呼べるところも少なく、場所によっては(スパイク裏の)ポイントが刺さらないくらい硬くて、ボールもゴロで転がらなかった」

 環境はアルゼンチンに劣ったが、プレーする喜びを感じられた。14-15年シーズンにはリーグ優勝を飾り、ベストイレブンにも選出された。昨季プレーしたポーランド1部ビェルスコ=ビャワでは開幕戦でマン・オブ・ザ・マッチに輝き、今季加入したベロエで予備予選ながら欧州リーグの舞台にも立った。

 中学1年で親元を離れ千葉に住む祖母の家に身を寄せながら日本代表を夢見てきた。海外にこだわる理由は代表を志すからこそだ。

 「一番の目標に代表があって、代表でプレーすることをイメージした時、相手は外国人になる。それなら海外でやらなければいけないと思った」

 日本人選手の最高峰である日本代表。その頂を見上げ、加藤は一歩ずつ歩みを進める。はるか東欧の地から続く道のりは当然、平たんではない。

 「国を背負えるのはすごいこと。選手なら自然と目指す場所で、その中でできることになれば幸せです。今後もし代表に入ることができれば、子供たちにもっと違った道もある、新しい道を希望として持ってもらえるきっかけになればと思っています」

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