井上尚弥 伝説超え!77年ぶりジョー・ルイスの記録更新 聖地ベガスも総立ち 世界戦23度目KO勝利
「ボクシング・4団体統一世界スーパーバンタム級タイトルマッチ」(4日、ラスベガス)
聖地ラスベガスで、モンスター伝説にまた新たな1ページが加わった。4団体統一世界スーパーバンタム級王者の井上尚弥(32)=大橋=が、挑戦者のWBA1位ラモン・カルデナス(29)=米国=を8回45秒TKOで下し、防衛に成功。2回にはまさかのダウンを喫したが、逆転でプロ30勝目(27KO)を飾った。伝説の世界ヘビー級王者、ジョー・ルイス(米国)と22で並んでいた世界戦でのKO勝ちは歴代最多記録を樹立。4団体王座同時防衛は4度目で“カネロ”サウル・アルバレス(メキシコ)と並ぶ最多記録となった。
怪物が崩れ落ちる。まさかの光景に本場ラスベガスの観客はどよめき、総立ちとなった。2回、尚弥が前に出たところに鋭い左カウンターを合わされ、尻もちをついた。昨年5月のルイス・ネリ戦で喫したのと同じような形でキャリア2度目のダウンを奪われたが、ゆっくりと立ち上がると逆襲に備えた。
「非常に驚いたが、冷静に組み立て直せた。相手も必死に倒しにきている。ボクシングはそんなに甘くないと痛感した」
以降も負けじと近い距離で応戦し、打ち合い上等で手を出した。「イノウエ」コールも発生する中、強烈なボディーで相手の動きを止めると、7回に右ストレートでダウンを奪取。さらに8回、強打の速射砲を繰り出し、レフェリーストップでタフな相手を仕留めた。
ジェットコースターのような怒濤(どとう)の展開にラスベガスの観客も酔いしれた。「今日の試合を見ていただければ、僕が殴り合いが好きだということは証明できたと思う」。序盤のダウンも、珍しく出した鼻血も、モンスターからすれば世界一の歓楽街でショーを盛り上げる一環に過ぎなかった。
前回のラスベガスは収容人数4000人規模の会場だった。当時、車で移動中にTモバイル・アリーナを通り過ぎた際、大橋ジムの大橋秀行会長は「デカいな~。こんなところで試合してみたいよね」とつぶやいた。4年後、それが現実となった。重量級が人気の米国において、軽量級がメインを務めるのは異例。広告やグッズなど街中を「怪物」がジャックした。
主催するトップランク社のボブ・アラムCEO(93)は「井上は大谷翔平と並び、米国でも大きな注目になっている日本選手」と称賛する。2日にニューヨーク、3日でサウジアラビアと続いた世界戦興行で、注目選手が続けて凡戦に終わる中、大トリを締めくくった日本人王者は「僕が一番盛り上げることができたのではないかと思います」と自負を込めた。
くしくも聖地で、伝説のヘビー級王者、ジョー・ルイス(米国)の持つ世界戦でのKO記録を77年ぶりに塗り替えた。大橋会長が「KOにこだわらなければ、井上はもっと上の階級でも十分戦える」と話すように、あくまで倒して勝つのは尚弥の矜持(きょうじ)だ。「記録のためではなく自分自身のためにそういった(倒す)試合内容をつくっていきたい。自分のファイトスタイル的に、どんな相手であろうがKOを狙っていきたい」。既に来春までビッグマッチを見据えるスーパースターにとって、この数字は通過点に過ぎない。
◇井上尚弥(いのうえ・なおや)1993年4月10日、神奈川県座間市出身。神奈川・相模原青陵高時代にアマチュア7冠。12年10月プロデビュー。14年4月にWBCライトフライ級、同年12月にWBOスーパーフライ級、18年5月にWBAバンタム級王座を獲得。19年11月にワールド・ボクシング・スーパーシリーズ優勝。22年12月に世界主要4団体王座統一。23年7月にスーパーバンタム級2団体王者となり、4階級制覇。同年12月に4団体の王座を統一。右ボクサーファイター。
◇ジョー・ルイス 1914年5月13日、米アラバマ州出身。1934年にプロデビューした。37年にジェームス・ブラドック(米国)に8回KO勝ちし、史上2人目の黒人の世界ヘビー級王者になった。51年に引退。54年にボクシング殿堂入り。1981年4月12日に心臓発作のため、66歳で死去した。全階級を通じて、最多防衛記録である世界王座25回連続防衛記録は今も破られていない。愛称は「褐色の爆撃機」。成績は69戦66勝(52KO)3敗。




