【長谷川穂積の拳心論】「ピンチは逆にチャンスになる」ポストコロナのボクシング界へ

 プロ野球、Jリーグ、ゴルフなどに続いて、プロボクシングの興行も7月12日の中日本新人王予選(愛知県刈谷市)から再開される。ビッグマッチを除けば入場料金が収入源の多くを占めるボクシング興行で、原則無観客、赤字覚悟での再スタートとなる。濃厚接触が避けられない競技性から、選手の練習環境への影響も否めない中、元世界3階級制覇王者でデイリースポーツ評論家の長谷川穂積氏(39)が“ポストコロナ”のボクシング界について考えた。

  ◇  ◇

 コロナ禍の影響で、ボクシングは特に厳しい状況に置かれた。プロ加盟ジムへの活動自粛要請でジムの多くは経営難に陥り、選手は練習環境を失って収入も途絶えた。

 「公園で練習していた選手も多かったようです。と言っても、ロードワークやシャドーくらいしかできないでしょう。ボクサーはプロと言っても試合がなければ収入はない。コロナでバイトもできなくなった選手も多かった」

 自身も神戸市内で「長谷川穂積フィットネス&ボクシング」を経営する。プロ加盟ではないためスパーリングなど接触が激しい練習は行わないが、経営には頭を悩ませた。

 「開けるべき、休むべきという2つの意見があり、僕は会員さんがゼロになったら休もうと思っていた。それでも毎日10人くらいが通ってくれたため、人数制限、マスク着用、換気の徹底、室内や用具のアルコール除菌などの対策をしてジムを開け続けました。緊急事態が明けて、『このジムがあったおかげでストレスが限界にならずにすんだ』と言ってもらったこともある。何が正解だったかはわからないけど、結果的に感染者が出ずによかったと思います」

 7月からはプロの興行が再開される。事前の抗体検査や前日計量後は宿泊施設で選手を隔離するなど、さまざまな条件下での再開となる。

 「通常の興行はテレビ放映が入ったとしても、チケット代がなければ収益はプラスにならない。ファイトマネーを出すのも厳しいと思いますが、興行をするなら、ジムは赤字になっても選手への報酬を捻出してほしいと思います。ボクシングはスポーツであり“殴り合い”です。ボクサーはお金がほしくて競技をしているわけではないけど、僕なら無報酬で“殴り合い”はできない。声援がない会場というのもボクサーには想像以上に苦しいものです。また、前日計量後の隔離も、ようやく減量が終わってリラックスし、戦闘態勢へと入っていく大事な時間だけに負担はあるでしょう」

 ようやく動きだした経済活動の中で、ジレンマを抱えるのは他競技も同じだ。しかし、ボクシングは競技性ゆえの安全確保と試合開催という経済活動の両立が特に難しい。実際に予定していた興行を断念したジムもある。

 試合自体が決まらない選手も多く、モチベーション維持が難しい状況。長谷川氏は自身最後の試合、2016年のWBC世界スーパーバンタム級王座戦の経験で得た教訓を、厳しい立場にある選手たちに明かした。

 「僕自身、試合1カ月半前に(利き手の)左手を骨折してしまったことがあります。非常に厳しい状況でしたが、気持ちを切り替えて残った右手で勝つと決め、バランスを考えた練習を徹底した。普段はできなかった練習で右を多く使えるようになり、勝つことができました。ピンチは逆にチャンスにもなる」

 スパーリングが本格化する試合前に利き手をまったく使えなくなりながら、3階級制覇の快挙を達成した。“ポストコロナ”は対人練習の減少など環境が変化する可能性もあるが、ピンチをどう捉えるかで未来は変わる。

 「状況はみんな同じ。だからこそ、選手はこの時期の過ごし方でライバルと差をつけられると思ってほしい。気持ちを保って、これまで何気なくやっていたシャドーも相手を具体的に想定して考えながらやる。サンドバッグではいつも以上にきれいなパンチを意識する。漠然とスパーをやるより実になることはたくさんある。僕が現役ならそう考えて練習すると思います」

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