山中の母・理恵さん女手一つで6人子育て「うれしさしかない」

 小学生時代の山中竜也(左)と母理恵さん(母理恵さん提供)
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 「ボクシング・WBO世界ミニマム級タイトルマッチ」(27日、芦北町民総合センター)

 世界初挑戦の同級1位・山中竜也(22)=真正=が3-0の判定で王者・福原辰弥(28)=本田フィットネス=を破り、新王者となった。試合会場には女手一つで山中ら6人きょうだいを育てた母理恵さん(46)も駆け付け、戴冠の瞬間を見届けた。

 夢のようだった。理恵さんは「うれしさしかない。腰が砕けそう」と目を潤ませた。山中が小学5年の時に離婚。6人の子供を女手一つで育ててきた。当時は末っ子の愛斗(まなと)君が2歳だったこともあり、昼間は保育園に預けず一緒に過ごすことを選んだ。その代わり、夜間は寝る間を惜しんで働いた。

 夜10時過ぎからパチンコ店の清掃、タクシーの洗車、ファミレスのキッチンなど時には3つの仕事を掛け持ちし、帰宅は朝7時頃になっていた。長男の山中はパンを焼くなど朝食の準備を手伝い、理恵さんは2、3時間ほど、つかの間の仮眠を取る生活が続いた。

 中学1年の誕生日。山中は小さなサンドバッグやパンチングボールなどが一緒になったボクシングの練習セットが欲しいと言ってきた。理恵さんは自分の姉妹ら親類からもお金を集めて数万円の品をプレゼント。嬉しさのあまり、毎日のように練習した思い出の詰まった贈り物は、今も実家に残っている。山中が物をねだったのはそれが最初で最後だったという。何かを買ってほしいということは一切なく、靴下が破れれば、母が知らぬ間に自分で縫って履いていた。

 一度だけ母を怒鳴ったことがあった。中学の修学旅行前。息子を思って服や下着を新調した理恵さんに対して「もったいないことをするな」と声を荒げた。友達が家に遊びに来ていたにもかかわらず。山中は「服とかに興味がないんですよ」と振り返るが、子供なりに家計を気遣っていたと母は感じた。

 真正ジムの寮に入り実家を出て以来、山中は母の日と誕生日にはプレゼントを欠かさない。服や傘など「実用的な物が多いです」と理恵さんは笑う。母の好きなコーヒー豆やコーヒーメーカーを贈ったこともある。母と2人で映画を見に行くこともあるという。

 昨年の東洋太平洋王座決定戦以降、理恵さんは試合が近付くと、山中が次男大貴君(19)、次女菫(すみれ)さん(15)と暮らす神戸市内のマンションを訪れ、食事面で減量を支えてきた。山中からは野菜を蒸したりといった質素なメニューを求められることが多く「腕の振るいがいがない」と苦笑いする。試合後、減量から解き放たれた山中は「お母さんの肉じゃがを食べたい」と息子の顔に戻った。世界王者として口にする母の味は格別だろう。

 12年のプロデビュー戦から山中の試合は全て見ているという理恵さんだが、慣れることは一切ないという。13年の西日本新人王予選で喫したKO負けが「頭にこびりついて離れず、毎日思い出さない日はないくらい」。今回も試合前日の夜は一睡もできず、朝から食事も喉を通らなかった。それでも試合中は目をそらすことなく、息子の戦いを見つめ続けた。

 山中が恨み言も漏らしたことも、誰かを悪く言うこともなかったという。「あの子が長男で良かったと思うことがたくさんあります」と理恵さんは振り返る。母と6人の子供で歩んだ10年近くの日々が、ようやく報われた。戴冠の舞台を見守った母は穏やかに笑った。「私が子供たちを守ると思ってきたけど、私が守られてきたみたい」-。

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