長谷川穂積×具志堅用高×比嘉大吾(3)世界王者つくって沖縄へ帰る夢を実現できた
デイリースポーツのボクシング評論「拳心論」で健筆を振るう元世界3階級制覇王者、長谷川穂積氏(36)の新企画「ボクが○○してみた!」。今回は、WBC世界フライ級王者、比嘉大吾(21)=白井・具志堅スポーツ=と具志堅用高会長(62)に、同ジムで「直撃取材してみた」。世界王者経験者3人がトレーニングについて語り、日本選手初の全戦KO勝ちで戴冠した新王者・比嘉の今後の展望に期待を寄せた。
◇ ◇
長谷川「パンチ力は足腰やもんな。野木(丈司)トレーナーのトレーニングはきついんやろうね。合宿は休みなし?」
比嘉「全休はなくて、朝やって昼夜休みとか、それが1日だけです」
長谷川「3部練?すごい。全部走るの?」
比嘉「合宿ではほとんど走りっぱなし。階段ダッシュと。階段見つけるのがうまいんです。いろんな階段があるんです。朝に競歩を入れたら昼夜2回は走るとか、朝ロングマラソンで昼は山登り、その間に筋トレとか」
長谷川「競歩?」
比嘉「いつもと違う筋肉痛がします。高校生の時にやらなかったメニューがほとんどです。(パンチが)ぶれにくくなりました。また、高校時代は根性論でした。内地の人に負けるなって。宮古島なので沖縄本島の人に負けるなというのもある。そういう気持ちと、プロでの科学的なトレーニングがマッチして、今があると思う」
長谷川「普段はどういうことを意識して練習しているの?」
比嘉「サンドバッグにしても、思い切り一発一発打つのと“パッキャオ・シャドー”もやっています。バッグでパッキャオくらい速く打つのを野木さんが考えて」
具志堅「世界戦が決まるとスパーは100ラウンドくらいやる?」
長谷川「そうですね。何日くらい前からやる?」
比嘉「1カ月くらい前に合宿から帰ってきてスパーに入ります。8ラウンドから最後は12まで」
長谷川「1カ月で100は多いね。会長はそんなにされました?」
具志堅「当時は世界戦が15ラウンド制で、オレはスパーリングパートナー3人で3ラウンドずつ。でも、スパーリングが終わった後が大変で、バッグをガンガンたたかされるんだ。スパーの後だからきつい。プロに入った頃はサンドバッグを4ラウンドもたたけないほど体力がなかったけど、じわじわ体力がついて練習量も増えた」
長谷川「何か一番嫌な練習?」
比嘉「野木さんに会って走るのがちょっと嫌いになったかな。野木さんはマラソンランナーなので(高校で全国大会出場の元長距離選手)。でも自分で追い込めないところがあるから。自分で考え走るのは嫌いじゃないけど、合宿はつらいです」
長谷川「合宿嫌やもんなあ。帰ってきたら達成感あるけどな」
具志堅「フライ級で獲ったけど、そんなに(この階級で)はできないな。1年くらい」
長谷川「今何キロ?」
比嘉「60キロくらいです」
長谷川「じゃあ無理やな。何階級制覇とか希望ある?」
比嘉「長谷川さんと同じ、3階級くらいいきたいです」
長谷川「いけるな」
比嘉「防衛の難しさって勝つのもあるけど、節制にあると思うんです。目につきにくいんですけど」
具志堅「パワーはそんなに変わらないと思うけど、階級を上げてスピードがどうかな」
長谷川「耐久力とね。今参考にしているのは(4階級制覇王者の)ローマン(ゴンサレス=ニカラグア)?戦い方が似ているもんな、リーチ長い。(ガードで腹まで)隠れるもんな。外国人みたい」
長谷川「この前の王者(王座を奪ったファン・エルナンデス=メキシコ)はパンチあったの?」
比嘉「ありました。アッパーが強かったですね」
長谷川「タイミングがうまかったよね」
具志堅「思ったよりデカくて、よくミニマムで井岡とやったと思ったよ」
長谷川「計量失敗(王座剥奪)だよね」
具志堅「メキシコだったらあれくらいパスさせてるんじゃないかな。タイとか。日本の計りは正確だからね」
比嘉「200グラムオーバーって言ってるのに(パスしたと)拍手してました。会長が『NO!』って言ってそれでパンツとって」
具志堅「タイの立会人は何も言わないけど、日本のコミッションはそんな甘くない。相手はもうやめたと思ったはず。すぐコーラ飲んでしまった」
長谷川「エーッ!」
比嘉「当日は相手と1キロ違いました。当日計量で自分は54・3キロで向こうは55・3キロ。(冷静だったのは)自分が得することはないんで、自分の試合にだけ集中していた」
長谷川「今、ほしいものは?」
比嘉「海外旅行。行けたらどこでもいいです。海外は空港に降りたら(看板などの)字が違うじゃないですか」
具志堅「海外旅行は初防衛(のごほうび)だな。とりあえずハワイ」
比嘉「ハワイっすか?自分が好きだからですよね…」
具志堅「沖縄に行ったら(大歓迎を受けて)寝る時間がない」
比嘉「すごい盛り上がりで、歩いていても気づかれて」
具志堅「羽田から那覇に到着する前に、機内で放送が流れたんだよ。具志堅用高会長と世界王者の比嘉選手がご搭乗です。みなさんでまた応援しましょうって。世界王者つくって沖縄へ帰る夢を実現できたなって。オレの時はなかったのよ」
比嘉「すごかったです。空港では後ろ側から通って荷物も持ってくれるんです。いいんですか、そこまでしてもらってって」
具志堅「おもしろいのよ。機内販売を“買わされた”の」
比嘉「自分はイヤホンで音楽を聴いてて(よく聞こえず)この中から好きなものを選んで下さいと(いう風に)聞こえたんです。それでイヤホンを指したら1万7千円ですって。ショックだったんですよ。差し上げますというオーラで来たから。チャンピオンになったから、財布を出して払いました」
具志堅「オレは前の席にいて、こいつカバン出してベルト見せて、ゆんたく(おしゃべり)してるなって思ってた」
長谷川「1万7千円!しかも、イヤホンしてて、またイヤホン買うって…」
具志堅「その人、私が世界チャンピオンに売ったのよって自慢してるよ」
比嘉「沖縄の人に(夢を)という気持ちはあります。25年も長い間出てなかったので」
具志堅「若い子でボクシングやる子がかなり出てくるだろうね」
比嘉「全国的には知られていないんで、ボクシングを知らない人からも知られたい。長谷川さんも会長も、引退してもみんな知っている。そういうボクサーになりたい」
長谷川「ならKOを続けていくことやな。防衛もだけど、今は複数階級の時代だよね」
比嘉「長谷川さんは防衛回数も複数階級も2つ持ってますね」
長谷川「体重がきついと思うから、連続KO記録をキープしながら途絶えることがあったらそれを機に階級チェンジして、会長の教えを守ってとにかく長いことやってほしい。ダメージって絶対たまるから。反応が遅くなって打たれ弱くなることは間違いない。ボクシングを続けていって、打たれ強くなることはない。そこを理解して35歳くらいまでやってほしい。今から35までやったら、国民全員が知る存在になるよ」
具志堅「年3回くらい防衛しないと」
比嘉「いっぱい試合をやりたいです。ラスベガスでも軽量級が盛り上がっているので。強い選手とも人気のある選手ともやりたい」
長谷川「ローマン・ゴンサレスとやりたい?」
比嘉「はい、やりたいです。あと、次神戸に行った時に長谷川さんの店(タイ料理店・クルアタイ)に行きたいんですけど」
長谷川「試合が終わったら接待するよ。WBC総会(10月・バクー)も行けるんじゃない」
比嘉「メイウェザーと写真が撮りたい。レアですよね」
長谷川「オレもそう思ったけど、撮らしてくれへんねん、でっかい黒人のボディーガードがいて。だから僕はボディーガードを撮りました(笑)」
◇ ◇
具志堅用高(ぐしけん・ようこう)1955年6月26日、沖縄県石垣市出身。興南高でボクシングを始め、インターハイ優勝。卒業後、協栄入りし、74年5月プロデビュー。76年10月に当時国内最速のプロ9戦目でファン・グスマン(ドミニカ共和国)に7回KO勝ちし、WBA世界ライトフライ級王座を獲得した。13連続防衛の日本記録を樹立。王座を陥落した81年3月の試合を最後に引退した。戦績は24戦23勝(15KO)1敗。15年に国際ボクシング殿堂入り。白井・具志堅スポーツジム会長。
比嘉大吾(ひが・だいご)1995年8月9日、沖縄県浦添市出身。宮古工高でボクシングを始める。3年時に具志堅会長からスカウトされプロ入り。2014年6月デビュー。15年7月に敵地・タイで行われたWBC世界ユースフライ級王座決定戦に7回KO勝ちし2度防衛した。16年7月に東洋太平洋フライ級王座を獲得し1度防衛。今年5月20日にファン・エルナンデス(メキシコ)を6回TKOで破って現王座についた。身長160.5センチ。右ファイター。