ワンダフルを唄言葉に載せて 六角精児×下田逸郎(2)

 六角精児
2枚

 俳優、六角精児さんとの出会いから生まれた新しいCDアルバム「緑の匂い」は、シンガーソングライターの下田逸郎さんが世に送り出してきた楽曲の間に下田さん自身の人生を投影したストーリーをちりばめた唄物語という新しいスタイルをとっている。古希を目前にした今なお表現の幅を広げようと挑む下田さん。「人間も宇宙もすべてつながっている。唄や物語を通して僕はそのパイプ役になりたい」と今の境地を語る。

 新しいアルバムで朗読用の作文を手がけた下田さんは「70を前にしてようやく自分の物語が作り出せるようになってきた」と言う。「今、昔の唄をもう一回ひっくり返しているんだけど、ずっと一貫しているんだってことに気付いたんだよね」

 高校生の頃、目立ちたくて始めた音楽。文化祭で歌った「学校の教室 机の足かせ」では社会にからめとられたやりきれなさを詞にした。卒業後、昭和の大作詞家、浜口庫之助に才能を見出され音楽塾に入った。入塾後半年経ったころ浜口さんは下田さんの母に「息子さんを育てます」と言うほどの期待を背負った。同じ門下生からデビューしたにしきのあきらさんや西郷輝彦さんが光を浴びた。

 だが、下田さんは華やかな世界には背を向けた。20歳で出会ったアンダーグラウンドの演劇集団を率いる寺山修司さんと出会い、芝居や映画の音楽を担当した。浜口さんと寺山さんは口をそろえて下田さんに言った。「お前は時間がかかるよ」と。「後から考えると、表に出るより、いい歌を作ることがお前には向いているという僕の本質を見抜いていたんだなと思う」。途中、エジプトに放浪し、帰国して漁師や養豚などの職を転々とした時期があった。「でもやっぱり俺には音楽しかないと思ってね」。そこから自分のための音楽づくりが始まった。

 世の中ってワンダフルなんだよと下田さんは言う。「ワンダーがフル。こうだ、と決め付けられないような不思議なことで満ち溢れている。それを美しい唄言葉に乗せて伝えたい」。

 「緑の匂い」のレコーディング中、下田さんは六角さんに問うた。「唄と芝居とテレビと映画、どれが一番好きなの」。芝居かな、と言葉にした後、「やっぱり人間ですよ」と六角さんは言った。物語の中には「境目」という言葉がたびたび出てくる。人間と人間、地上と空、そして宇宙。「境目なんてあるようでない。みんなつながっている」。足かせは自分で作っているのかもしれない、と下田さんの言葉を聴いて思わされる。

 ここ数年でミュージカルをつくり、唄物語を手がけ、そして今は映画による表現も模索する下田さん。旺盛にワンダーな世界を掘り進む。

 ◆下田逸郎 宮崎県出身。1968年、作曲・音楽監督として劇団「東京キッドブラザース」の旗揚げに参加。上演したミュージカルが米ニューヨークで高い評価を得た。その後は作詞・作曲家としても活躍し、多くのアーティストに楽曲を提供している。

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