業師・宇良が初場所で見せた不屈の魂
不屈の魂を感じさせる珍手だった。伝え反りで場内を沸かせた宇良(32)=木瀬=だ。
15日に両国国技館で行われた大相撲初場所4日目の幕内、高安との一番。立ち合いで頭からぶつかり、ふところにもぐり込む。高安の上手投げを右足で踏ん張りこえらえると、頭を突き上げて高安の上体を起こし、左脇の下に素早く頭を入れた。砂かぶりで撮影していた私の脳裏に「居反り」がよぎる。幕内では60年以上記録されていない大技である。
「居反り」とは、写真の体勢から腰をかがめて後ろへ反って倒す技だ。新年早々、歴史的瞬間に立ち会えるのかと思った次の瞬間、まわしをつかんでいた左手を離し、くるりと脇をくぐり抜け、高安の左腕を抱えたまま後ろへ反った。高安はバランスを崩し、なすすべなく土俵に転がった。館内に響き渡る大歓声と拍手。場内アナウンスが「伝え反り」と告げた。
居反りではなかったが、私は宇良の珍手に不屈の魂を見る思いだった。アマチュア時代からアクロバティックな決まり手で名をはせ、2015年に鳴り物入りで関学大相撲部から各界に飛び込んだ。デビュー以降、観客の期待に応えるかのようにアクロバティックな珍手で場内を沸かせ、各界屈指の人気力士となり幕内へと駆け上がった。しかし、無理な体勢から仕掛けるため度々膝を痛め、2023年1月場所で膝の大けがで一時は幕内から序二段まで降格した。復帰に時間がかかると思われたが、同年12月場所で新小結に昇進し見事に復活し、再び人気力士として活躍している。
デビューした大阪場所の前相撲で彼を取材したことを思い出した。土俵入り前のつかの間、私は声をかけ自己紹介し握手を求めた。強めに握りほほ笑むと、握り返してきた。高校時代は硬式野球部だった私は握力に自信があったが、予想を超える怪力に、驚愕(きょうがく)したことを覚えている。小兵ながらアクロバティックな大技を可能にするのは、並み外れたパワーと内に秘めた闘志だ。
今年も新年早々、アクロバティックな「伝え反り」で沸かせた。十両では2020年九州場所で旭秀鵬に決めている「居反り」。不屈の業師は幕内で決める歴史的瞬間を、虎視眈々(たんたん)と狙っているにちがいない。(デイリースポーツ・開出牧)