【野球】引退後の進路、お金…若くして戦力外になった選手に共通する悩み「自分自身、野球以外何もできないと思い込んでいた」元阪神投手の公認会計士・奥村武博さんが伝えたい思い

 元阪神投手で、日本で初めてプロ野球選手から公認会計士へと転身を遂げた奥村武博さん(46)。9年に及ぶ挑戦で超難関の国家資格を取得し、現在は自身が立ち上げた会社以外にも多くの組織で役職に就き、講演活動などにも精力的に取り組む。プロ野球を引退後、第二の人生の厳しさに直面し、苦労を重ねながらもビジネスの世界で成功を収めた奥村さんがスポーツの世界に身を置く後輩たちへ伝えたい思いとは。

  ◇  ◇

 現在の自分は、プロ野球選手時代の自分からは想像もつかないという。

 「当時の自分の延長線上にある現在ではないですよね。OB会なんかに行って現役時代にお世話になっていた先輩方やコーチとお話をする機会もあるのですが、おまえがその世界に行くのかという反応で。自分の中でも驚きはあります」

 華やかに見えるプロ野球の世界だが、引退後の人生の心配をしなくてすむ人はほんの一握りに過ぎない。

 「引退した選手が苦労するのは野球界では当然の話ですし、そこはなかなか改善されない。NPBが若手選手にアンケートを取っても、結局、進路とお金で悩んでいることが一番多い。現役時代に成績が出なくて早くクビになって、その後どうしようという選手が大多数なわけじゃないですか」

 プロ野球という高いレベルに挑んだ選手が、戦力外となった途端に社会的価値が下がるような風潮についても「体育会の大学生が卒業して就職する時の市場価値は高いですが、プロに入ってより高いレベルにチャレンジしてクビになって就職活動すると価値が下がっていく」と違和感を口にする。

 公認会計士を目指して受験勉強をしている時に気づいたのは「目的を達成するために、パフォーマンスを上げる取り組みは、スポーツでも勉強でも根本は同じ」ということ。ビジネスをする上でも共通するという、そうした思考回路を備えていることはスポーツ選手の強みであるはずだが、引退してしまうと、これまでのキャリアはぶつ切りになり、無力感にさいなまれてしまう。

 「自分自身も野球しかしてこなかったから、野球以外は何もできないと思い込んでいました。スポーツに取り組んできたことで得られた力は何なのか。自分の中で言語化して伝えられるようになれば、引退してから自分は何もできない、どうしたらいいのか、という選手が少なくなると思う」と訴える。

 97年にドラフト指名されて阪神に入団してからの自身のプロ野球人生が根底にある。

 「プロに入ったら目先の誘惑に流されて、井川との差がついた。今の考え方で現役に戻ったら、もっとパフォーマンスが上がっていたんじゃないか、ヤンキースに行ったのは井川じゃなくて俺だったんじゃないかという後悔があった」

 同期入団でエースへと駆け上がっていった井川慶投手の名前をあえて口にした。

 思うような成績を残せず若くしてユニホームを脱ぎ、その後の人生の厳しさに直面する多くの元プロ野球選手。その一人だったという奥村さんは言う。

 「おこがましいかもしれないですけど、キャリアの面で新しい視点を持ってもらえるような経験値はあると思うので、勝手に使命感を持っているというか、スポーツ界に恩返しをしたいと思っています。違うキャリアで自分が頑張ることによって、後に続くスポーツ選手たちの、キャリアの選択肢を広げることになればいいなと思っています」

 選手個々が現役時代の経験や気づきを引退後のキャリアに転換することができるよう、これからも活動を続けていく。

(デイリースポーツ・若林みどり)

◇奥村武博(おくむら・たけひろ)1979年7月17日生まれ。岐阜県出身。97年度のドラフト6位で阪神入り。同期は中谷仁、井川慶、坪井智哉ら。1軍登板なしで01年に現役を引退。02年は阪神の打撃投手を務めた。飲食業を経て、13年に元プロ野球選手として初めて公認会計士の資格を取得。株式会社メンバーズの社外取締役、関西大学客員教授、株式会社スポカチ代表取締役、一般社団法人アスリートデュアルキャリア推進機構の代表理事、日本障がい者サッカー連盟、日本プロ野球OBクラブの監事などを務める。

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