【芸能】ドレスコーズ・志磨遼平「くそったれ、ニヒリズム/くたばれ、ポピュリズム/ぼくがいるだろ、ロックンロールだ」 10thアルバム「†」を語る
志磨遼平のソロユニット「ドレスコーズ」が、5月に10thオリジナルアルバム「†」をリリースした。「ジャズ」(2019年)や「戀愛大全」(2022年)といった傑作コンセプトアルバムを発表してきたドレスコーズだが、今回はデビューしたての新人のようなロックンロール・アルバム。リリースにあたり「くそったれ、ニヒリズム/くたばれ、ポピュリズム/ぼくがいるだろ、ロックンロールだ」という挑発的な声明を発表した志磨に、新作に込めた意図を聞いた。(デイリースポーツ・藤澤浩之)
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志磨は昨年、自叙伝「ぼくだけはブルー」を発表したことで「今までの活動が一つ視点からぐるっと一周してまた戻ってきたような感覚」になり、「改めてデビューアルバムみたいなものを作りたい」と考えたという。
「『僕にも昔こんなことがあったんだよ』って若い人に話すおじさんになってしまうのかと思うと恐ろしく、居ても立ってもいられなくなって、新しい曲を書こう、新しいアルバムを出そうという気が起こって」
サウンドはクラッシュの「白い暴動」やセックス・ピストルズの「勝手にしやがれ!」などの名デビュー盤をほうふつさせるロックンロール。「全く別の新しい人生を始めるという気持ちで臨んだ」以上、「一番信頼しているもの、最も影響を受けているもの、この世で一番素晴らしいと思っているスタイル」であるロックンロールを選んだのは必然的だった。
「ぼくはヴィシャス」と歌う「ヴィシャス」に始まり、デヴィッド・リンチ監督の映画を思わせる「リンチ」、「キルミー」と繰り返す「キラー・タンゴ」、ロック・ヒーローの名が連呼される「ロックンロール・ベイビーナウ」などが続き、アンセムになりそうな「ミスフィッツ」で締められる。10代で聴けば道を誤りそうな、純度の高いロックンロール・アルバムだ。
志磨は「テーマも脈絡もなく非常に優れた曲が詰め込まれている、シングルの寄せ集めのようにも聴こえるようなデビューアルバムが好きなので。策を弄(ろう)してないやり方ですね。僕が思う理想のデビューアルバムなんですね。こういうバンドがこういうレコードでデビューしたら僕は一発でまいっちゃう、ファンになっちゃう」と自負した。
世界はロシアのウクライナ侵攻、イスラエルとハマスの戦闘など非常時の中で、兵庫県知事選や米大統領選などでポピュリズムの台頭が顕著になり、人はともすればニヒリズムに陥りがちだ。
それへの闘争宣言ともいえる声明について、志磨は「見過ごす、見逃すことはできない。この状況に反発、抵抗せずしてロックンロールはできない、(ボブ・)ディランとか過去のロックスターがそうしてきたように、自分もまた。今の状況が、先人が反発とか抵抗してきた当時より優れているとは思わないというか、僕はこのコメントにあるようなことを非常に強く思う」と吐露。
「恐ろしいのは、自分も加担しているかもしれないっていう(こと)。例えば悪くなっているのを傍観することしかできないんだっていうニヒリズムというか、僕はそういうアルバム(『平凡』や『ジャズ』)を立て続けに作った。嘆くような、人類は、僕らはもうおしまいだというようなことを言い続けて、状況がまさにその通りになっていくのに対しての立場の表明ですかね」
過去の傑作に対しての、あえての厳しい自省も踏まえて、志磨は「今すごく楽観的な音楽を作りたい。自分たちに未来はあるんだ、この世界はきっと素晴らしいものになる、あきらめていないという曲を改めて歌わないといけない。それは自分の正義に基づいて歌われているというのが僕のやるべきこと、ロックンロールのやるべきことだと思っていて、今はそれがこのアルバムの一番の意義です」と、「†」を世界に送り出した。
「先人が奮発してきたどの時代よりも今がさらに由々しき状態なのかもしれないと思うので、それに対し楽観を歌う、これが僕の抵抗なんですね。一人で行う僕の抵抗がニヒリズムに決して屈さないこと。大丈夫だよ、僕らはさらにいい世界を望むと。相手の条件をのんではいけない、もうだめだという諦めに屈してはいけないというふうに僕は歌っております、このアルバムで」
ディランやピストルズやクラッシュら先達のように、ドレスコーズはいかした音楽で世界への異議申し立てを行う。
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ツアー“grotesque human”の日程は次の通り。
◆6月21日 岡山・YEBISU YA PRO
◆6月22日 福岡・BEAT STATION
◆6月28日 名古屋・THE BOTTOM LINE
◆6月29日 大阪・なんばHatch
◆7月6日 東京・Zepp Shinjuku
7月13日には初の海外単独公演となる上海公演を行う。





