【野球】まさかのリプレー検証での誤審 元NPB審判の住職が振り返るオリックス監督激怒騒動 リクエスト弾はファウルだった…

プロ野球審判から住職となった佐々木昌信さん=群馬県館林市の覚応寺
ファウルがリクエストで決勝2ランになり納得いかない表情のオリックス福良監督(右)=2018年6月22日
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 元プロ野球審判員の佐々木昌信さん(55)は現在、群馬県館林市にある実家の覚応寺の第18世住職を務めている。通算2414試合に出場し、日本シリーズ6回、2017年のWBC出場の経験もある佐々木さんが、審判員時代を回想。2018年にオリックスの福良淳一監督(現オリックスGM)が激怒した誤審騒動を振り返った。

  ◇  ◇

 審判員が、その技量を発揮する場面とは何か。佐々木さんは「トラブル処理」の重要性を説く。

 「審判の腕の見せどころなんですよ。抗議対応であったり、乱闘があったりした時に、短時間でどう裁いていくか。その人の技量の最たるものです」

 そんな佐々木さんが、判定を巡って謝罪会見に追い込まれたのは、2018年6月22日のオリックス-ソフトバンク戦(ほっともっと神戸)だった。

 3-3の延長十回2死一塁、ソフトバンク中村晃が放った右翼ポール際の打球はファウルと判定された。だが、ソフトバンク工藤監督のリクエストによるリプレー検証の結果、本塁打に覆り、これが決勝点となってソフトバンクが5-3で勝利した。

 ファウルを確信していたオリックスの福良監督は試合後も怒りが収まらず、責任審判で二塁塁審を務めていた佐々木さんら審判団と一緒に20分間映像を確認。するとリプレー検証の判定が間違っていたことが判明したのだ。

 当時を佐々木さんが振り返る。

 「試合中に見たコマ送りの映像では、ボールが消えて見えたが、試合後に見た映像はコマ送りの一時停止の位置が正しかったらしくて、ボールが見える映像が出てきた。これは腹をくくるしかないと思って、わかりました、認めます。会見もやりますと言いました」

 報道陣の前に立った佐々木さんは「ファウルから本塁打の判定をしたが、(再確認の結果)ポールの前に白いものが見えた」と実際にはファウルだったと誤審を認めた。

 正しい判定をするためのリプレー検証でのまさかの誤審。翌日にはパ・リーグ統括、審判長が神戸を訪れオリックス側に謝罪をする事態となった。

 監督がリプレー検証を求めることができるリクエスト制度はこの年にスタートしたばかり。異例のトラブルは、試合結果を左右する検証に使用される機材の脆弱(ぜいじゃく)さ、操作方法の徹底不足といった問題を浮き彫りにした。

 だが、機材の問題とは別に、自身のトラブル対応を佐々木さんは猛省する。

 「試合後に福良監督と鉢合わせになった時、逃げるのかと言われ、じゃあ一緒に見ましょうと言ってしまった。絶対やってはいけない、だめなことなんです」

 大騒動を招いたことに対して佐々木さんは、2軍降格などの処分を求めたが、後日下されたのは、厳重注意処分だった。

 オリックスが要望していた、誤審の場面からの続行試合は行われず、NPBは本塁打の判定を最終的なものとし、リプレー検証のマニュアルの細分化など再発防止に努める方針を示した。

 「今はだいぶ機材も整ってると聞いてます。カメラワークや、テレビカメラが置いてある所も、審判からの要望に沿ってくれてるそうです。ビデオ判定が導入されてトラブルは激減ですよ。3分の1以下になったと思いますね。以前は一塁のアウト、セーフに関してはしょっちゅう抗議がありましたから」

 環境が整備されてきていることに佐々木さんは安堵の表情を見せた。

 その一方で「だから、抗議を受けて審判が対応する、勉強する場面が今はないんですよね。そういう面でいうと、審判のやりがいっていうのかな、そういうのがちょっと変わって来ている」と指摘した。

 審判として抗議を受けた際に心がけていたのは、相手の言葉に耳を傾けることだったという。

 「まず話を聞かないといけない。自分が間違っていたら、受け入れる。下手って言われたら、退場させることができるか。その繰り返しですね。監督の性格によって言い方は違ってきますが、毅然とした態度で話をするようにしていました」

 佐々木さんは実感を込めて言う。

 「マニュアル通りにやってたら絶対にトラブルって収まらない。そういう訓練ができた。この経験は住職としても生きています」

 想定外のトラブルに鍛えられてきた29年間の審判人生は、住職としての日々を支えている。

(デイリースポーツ・若林みどり)

 佐々木昌信 1969年8月6日生まれ。群馬県出身。大谷大学文学部真宗学科卒。外野手として3年秋に京滋大学リーグでベストナイン選出。1992年にセ・リーグ審判となり95年に1軍デビュー、29年間で通算2414試合に出場。球宴4回、日本シリーズ6回出場。2017年に第4回WBCに日本代表として出場。2020年に引退し同11月から実家である真宗大谷派覚応寺の第18世住職を務める。東都大学野球審判員。

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