【芸能】「有事」と「恋愛」と ドレスコーズ・志磨遼平インタビュー(前)

 志磨遼平の音楽ユニット「ドレスコーズ」が昨年、ニューアルバム「恋愛大全」をリリースした。コロナ禍が色濃く反映されていた前作「バイエル」に比べ、一聴すると、コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻、安倍晋三元首相の暗殺、統一教会問題といった世界の現状とは、一線を画したような趣になっている。「有事」と「恋愛」について志磨に聞くインタビュー、その前編。(デイリースポーツ・藤澤浩之)

  ◇  ◇

 志磨は「人は理不尽な何かに左右されて幸せな人生をムチャクチャにされたくはない。そういう意味で、最近は負け続けなわけですね、僕らはきっと」と、私たちの現状について指摘する。

 「恋愛大全」の制作理由については「ここしばらくは降りかかる不可抗力みたいなもの、えたいの知れない圧力みたいなものをとらえたくて作品に飲み込むような作り方だったけど。今回は反発なんでしょうね。好きにされてたまるかという感じ。自分たちは幸せになるという感じがたぶんあったんじゃないかな」と、さかのぼるようにして語り始めた。

 「恋愛大全」には失われた恋愛や恋人を思い返すような郷愁が感じられ、英歌手ブライアン・フェリーの作品を連想させる甘美さや苦みが漂っている。

 「たとえ苦い思い出としても、純粋に向き合えるだけでわりと幸福であるような。ここ数年、もしかしたらもっと長い時間をかけて、徐々に失っていったものみたいな。例えば東京に住んでいると、オリンピックを境に街の風景とか僕らの振る舞いもきっと変わったと思う。生活者も含めた景色がどんどんクリーンアップされていく感じ。そういう(失われた)ものへの郷愁みたいなものがすごく(あった)。それに加えてコロナ以降は空前の潔癖ブームって感じです。そういう自分たちの、汚れみたいなこととか、みっともなさとかにすごく愛着があったっていうようなものなんじゃないかな。(本作は)全体的にそういうところがあるような気がします」

 これまでもラブソングは作っていたが、あえてアルバムの全体的なテーマに据えたのはなぜなのか。

 「自分たちのみっともなさとか、はしたなさとか、節操の無さとか、そういう自分たちの欲望みたいなものの象徴として、恋愛が一番歌にしやすい。そういうものが歌いたかった。言ってしまえばさして大事じゃないものとか、重要じゃないものという感じ、恋愛とか趣味、たしなみ。もっと大事なことが世の中にはたくさんあって、そういうものに対して、恋愛もそうですし、例えば僕らの音楽、ポップスもさして役に立たない。重要でないものなので、その同じ役に立たないものとしての、何がしかの抵抗、アンチテーゼみたいなものが作りたかったんだと思います」

 コロナ禍ではエンターテインメントや芸術が不要不急扱いをされた。

 「そういうものすら手に入らなくなるっていうか、許されない状況になったらと思うとぞっとしますし、一時は制限されたわけですよね。体制からお達しが来た。自分の中ではすごくショックだったんでしょうね。

 これは誰かをくさしたりしたいわけじゃなくて、『音楽に今できることを』って何かある度に言いますね。僕はできることなんてない!って言いたい。なぜなら、そんなに大事なことじゃないから。なくても全然大丈夫。そういうものを取り扱っている身としての妙なプライドみたいなものが、はっきり実感できたんですね。実際にやめてくださいと言われた時に、より強く認識した。ますますいらないものを作りたくなったという感じが近いのかもしれない」

 2020年2月26日、人気アーティストの大型ライブが政府からの要請で即刻中止になり、二・二六事件とも称された。翌月、公演を行った人気バンドはネットで炎上した。

 「鶴の一声でできなくなる。自衛という風潮だからまだソフトに見えてますけど、はっきりと何か理不尽なものに差し止められることもないわけではないという怖さを目の当たりにする。今まではまかり通っていたことが急に批判の的になることもある。オリンピックの時のいろいろとかね、おっそろしいと思った。中世か、と思いましたからね」

 東京五輪に際しては、関係するアーティストの過去の行いが暴かれて炎上。さかのぼって罰していい、排斥していいという、いわゆるキャンセルカルチャーがまん延した。

 「難癖をつけたいというかね、とにかくうまくいかなければいいと思ってる派の人がいるわけですね。僕なんかももろ手を挙げてオリンピックわーいとは思ってなかったですから、思うとこもあるんですが、そういうオリンピックのきな臭さのスケープゴートっていうか。そうやって何でもいいからとにかくたたいてほこり出るやつをっていうのが、見てて恐ろしくなって。はしたないものへの弾圧みたいなものが強くなるのを初めて目の当たりにした。本でしか読んだことなかった、そんな時代はもう来ないと思っていたのに」

 キャンセルカルチャーに加えて、コロナ禍では政府よりもむしろ、野党や国民から行動制限を求める声が相次いだ。自分たちの方から体制に、自由を縛るように差し出すがごとき事態に、志磨は「(時代は)ホントに、繰り返すもんなんだな」と感じたという。恋愛をテーマに据えた裏には、そのような風潮への「何かしかのプロテストだぞという気持ち」もあった。(続く)

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