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【野球】阪神が繋ぐ縁 平野恵一氏 台湾でコーチ就任「命懸けで」監督は林威助氏

 現役時代はオリックス、阪神でプレーし、昨季まで阪神で1、2軍打撃や守備走塁コーチを歴任した平野恵一氏(42)が、今季から台湾・中信兄弟の1軍打撃・内野統轄コーチを務める。2月25日に渡台し、現在は隔離期間中。3月13日のチーム合流を前に、新天地に臨む決意を語った。

 昨季限りで阪神とのコーチ契約が終了し、進路について熟考する中で電話が鳴った。昨シーズンから同球団で監督を務める林威助氏(43)だった。「一番の決め手は林監督。すぐに熱烈なオファーをいただきました」。現役時代、阪神でも活躍した林監督とはロッカーも隣同士だった。互いに金本知憲氏(53)を師と仰ぎ、食事にも頻繁に出掛けた。

 「チームに日本の野球のよさや、経験したことを伝えてほしい。教えてほしい。打撃だけじゃなく、守備走塁も教えてほしい」

 用意されたポストは野手部門のほぼ全権。コロナ禍のビザ発給など出国手続きに時間を要したが、その間もオンラインで練習を見ながら戦力を把握。練習メニューの作成から選手の指導、コーチともコミュニケーションを図りながら、質問に答えるなどしている。中信兄弟は昨季、前期シーズンで優勝。後期優勝の統一セブンイレブン・ライオンズと相対した台湾シリーズは4連勝で優勝を決めた。

 「中信兄弟は優勝チーム。オファーに何で?とも思いましたが、林監督は、そういうことじゃないんだと。1人、1人のレベルを上げたいんだ、と。力になりたいと思いましたね」。求められているのは台湾野球のレベルアップ。野球の緻密さ、繊細さだ。169センチ、67キロと小柄ながら、プロ野球の第一線で活躍してきた平野氏にしか、伝えられないことがある。

 海を渡る理由は、まだある。11年3月11日。東日本大震災が起きた。同年5月、交流戦で空路、仙台に移動した。半壊の空港は仮設。機内から見た街の景色に声をなくした。オリックス在籍時から身近で、親戚や知人、友人も多く暮らしていた街。震災の翌日、台湾から200億円の義援金、400トンの援助物資が届いていたと知ったのは、数年後のことだった。

 「世界のどこよりも早く救助隊も派遣してくださった。日本人は感謝の気持ちを忘れてはいけない。ずっと、いつか恩返しをしたいと思っていたんです」

 現役時代から、ロッテの井口資仁(現監督=47)、元阪神の鳥谷敬(40)、ソフトバンクの柳田悠岐外野手(33)らと、毎年のように台湾で野球教室を開催。コーチ契約の締結が報道されて以降、在日台湾人の日本頼清徳之友会会長の陳天隆氏を中心に後援会が発足するなど、たくさんの支えも背中を強く後押ししている。

 「野球だけじゃないんですよ。日台のために頼むぞ、ありがとうって。架け橋にならないといけない。パワーを感じるんですよね。1人じゃない。背負うものがあります」。縁を大切にしたい。感謝、恩返し。ここにも海を渡る理由があった。

 国境を越え、言語の違いもあるが、コーチ業で培ってきた信念がある。阪神で2軍打撃コーチを務めた昨シーズンのことだ。新加入のメル・ロハス・ジュニア外野手(31)が不振で降格。修正箇所はいくつか見つかったが、あえてここでは口にしなかった。伝えたのは「ずっと見てるよ」。そんな言葉を姿勢で示すと、徐々に質問を受けるようになった。再昇格後、殊勲打を放った助っ人は「平野さんのためにもいい結果が出たので、非常にうれしく思うね」と感謝の言葉を口にした。

 「コーチとして日本で学んだことは、選手をどれだけ見られるかどうかです。人って、家族を信頼しているでしょ。何でか?って、一番見てくれているから。そこに信頼感があるんです。一流選手でも、2軍でクスぶってる選手でも、そこは一緒でしたね」

 加えて現役、コーチとしてプロ野球選手を見てきた中で、「いい選手には必ず共通点があります」と言う。「コーチって選手の目標だったり、目的地まで支えてあげる仕事。大事なのは選手が困った時に、どうサポートできるかだと思います」。見ることで変化を感じ取り、寄り添うことで信頼を得た。そこは助っ人選手も同じだった。

 隔離期間を経て13日から、チームに正式合流する予定。目指すのはチームのリーグ連覇と1人でも多く、台湾代表に選出される選手を育成することだ。そしてその先に、夢がある。「林監督を台湾代表監督にしたいんです。世界で戦う手助けをしたい。僕には大切にしていることがあるんです。『勝負は始まる前に決まっている』。野球の考え方、体の使い方などを教えたい。台湾のポテンシャルが高い野球に、日本野球の良さをプラスできれば、必ずレベルアップにつながると思うんです」と言う。

 未知への挑戦。感謝の思いが力に変わる。「オーナーをはじめ球団の方々が監督の思いを汲んで、受け入れていただいたので感謝をしないといけない」。当然、台湾では“外国人コーチ”。置かれる立場も十分に理解している。「試されている部分はあると思います。とにかく結果を出さないといけない。誰を使おうかと、監督が迷うくらいの選手を作り上げることが大事。やるからには今までの倍の力。命懸けです」。阪神が繋いだ縁。台湾の歴史、文化を理解する。野球だけではなく、日台の架け橋となるべく、必死に、大切に紡いでいく。(デイリースポーツ・田中政行)

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