【野球】阪神・秋山が手にした“魔法のストレート”

 まだ新型コロナウイルスが影も形もなかった2019年11月、鳴尾浜へ取材に行くと自主トレに励む阪神・秋山の姿があった。そのキャッチボールを見ていると、まったく力感のないフォームから放たれる直球はきれいな軌道を描き、失速することなく約80メートル先にいた相手のグラブに収まった。

 周りにいた他の阪神の若手とは明らかに違う球質。高卒ルーキーの時代から秋山のボールを見てきたが、明らかに変化していた。本人に理由を聞くと「今までは強くたたこうと意識しすぎていた。腕の位置をちょっと下げたら、ボールの感触がすごく良くなったんです」。そして「(12勝を挙げた)17年以上の感覚があると思う」と充実した笑みを浮かべながら、こう明かしていた。

 記者自身は過去に一度だけ、そんな“美しい”キャッチボールに出会ったことがある。2008年の北京五輪で阪神・藤川と巨人・上原がコンビを組んで遠投を行っていたシーン。まったく力を入れていないようでも、ボールは垂れない。軌道も山なりではなく、低く強く伸びていき、まるで白球が糸を引くように相手まで届いた。

 そんな2人のボールを若き日の田中将大やダルビッシュ有が興味深く見つめていたのが懐かしい。話を戻すと、秋山は2017年にプロ入り初の2桁勝利となる12勝をマーク。その当時のストレートは140キロ台中盤から後半をマークしていた。力強いストレートと抜群の制球力を武器に相手を牛耳った。

 しかし翌18年には右膝痛の影響もあって5勝にとどまり、同年オフに手術。翌19年シーズンも「右膝がなじんでこない」と手術の影響からか4勝にとどまった。

 プロ10年目を終え、「若い時と同じようにはいかない」と語っていた秋山。テーマを「賢く」に設定し、ボールの質を上げることに取り組んだ。パワーではなく、技術で打者を差し込めるように-。キャッチボールからボールのスピン量などを意識するようになったという。

 その結果、生まれたのが140キロに満たなくてもプロの打者を打ち取れる“魔法のストレート”。それを象徴するようなシーンが15日、甲子園で行われた広島戦の六回にあった。先頭の鈴木誠を差し込んで二飛に仕留めた高めストレートの球速は136キロ。侍ジャパンの4番を担うスラッガーを完ぺきに打ち取って見せた。

 前年にプロ入り2度目の2桁勝利となる11勝をマークし、今季は西勇とともに先発ローテの柱として期待される右腕。高卒1年目にいきなり4勝をマークした男も、今月26日には30歳の誕生日を迎える。成功も失敗も経験し、それを糧に自らのスタイルを作り上げた秋山。単に球速だけでストレートの威力を測れないところに、野球の、そしてピッチャーの面白さがある。(デイリースポーツ・重松健三)

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