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【野球】まだ道半ば…阪神・上本、新天地で命を懸ける全力プレーを

 甲子園球場には、秋風から冬の冷たい風が吹き始めた。新型コロナウイルスの影響をモロに受けた異例尽くめのシーズン。ただ、ドラフト指名に歓喜する新戦力が来る者なら、去る者がいるのがプロの世界なのだろうか。

 阪神ではこの日までに、上本博紀内野手(34)が退団する意志を固めた。福留孝介外野手(43)、能見篤史投手(41)に続き、来季の構想外であることが伝えられた。功労者としてポストは用意されたが、一方で現役続行に強い意欲があるようだ。

 クールな表情と、物静かな口調に隠すが、ケガを恐れぬプレースタイルは、小柄な体で命を懸けて戦った男の信条でもある。2017年9月30日の巨人戦(東京ドーム)。畠世周投手のストレートを左側頭部に受けた。

 翌10月1日の同戦、すぐに再戦の機会が訪れた。五回から登板した右腕に対して初球、甘く入ってきた直球を見逃さなかった。力強く捉えた打球は、左翼スタンドに消えた。 当時、金本知憲前監督(52)も絶賛。「今季、一番かっこいいホームランでした」と、興奮した様子で振り返った。指揮官も、頭部死球直後の次打席で本塁打を放った経験がある。そんな男が、後輩の背中に「おれのはまぐれ。あれはちゃんと踏み込んで打ってるから」と舌を巻いた。

 あふれるスピード感に、一発長打の意外性。糸井嘉男外野手(39)もFA移籍で加入した初年度、「阪神に来て一番驚いたのが、上本だった。こんないい選手だと思わなかった」と語っていた。物静かで目立たないが、小柄な体で命を懸ける全力プレーは、同じグラウンドで戦う仲間をも驚かせた。

 だからこそ、ファンにも愛された。左肘内側側副靱帯損傷、右目周辺の裂傷、左上前腸骨棘の亀裂骨折。ケガをいとわぬ全力プレーで戦ってきたが、その代償も大きかった。2018年5月5日の中日戦(甲子園)、二盗を試みた際に左膝の前十字靱帯を損傷。再建手術を受ける大ケガを負った。

 明日が見えない日々の中で同年、故障者特例措置で国内FA権を取得。「必要な選手」と複数年を保証する契約もあったが、退路を断って単年勝負を選んだ。覚悟と決意の挑戦に、保証を求めなかったのも、上本のプレースタイルと同様だった。

 「ケガばかりですが、僕のことを応援してくれる人がいる。ケガをしたという状態でも応援してくれた、支えてくれた、そういう人たちのためにプレーしたい」。

 熱狂的な阪神ファンの声援に感謝した。恩返しを誓って戦ってきた。それでも、1年近いブランクの中で、プロのスピードに慣れるまで時間を要した。動体視力を回復させるために「いろいろ試した」とメガネを試したり、専門医に相談するなど試行錯誤の繰り返しだった。

 昨年の秋季キャンプには、最年長となる33歳で参加。「結果が出る、出ないは言い訳。年のせいとか、ケガのせいとかにしないように、自分を追い込んでみたかった」と、若手に混ざってガムシャラらに白球を追った。広陵、早稲田と野球のエリート街道を歩んできたが、ひたむきに野球に取り組む姿勢は若手の手本でもあった。

 ただ、勝負を懸けた1年は、結果だけが出なかった。主に主将の糸原健斗内野手(27)が二塁を守り、小幡竜平内野手(19)の台頭もあった。長く続く2軍生活だが、今月は限られた出場機会で2本塁打。その姿に衰えはまだ見えない。

 矢野燿大監督(51)就任後、2年連続のV逸。貢献できなかった悔しさを募らせるが、野球への情熱にも衰えは見えない。阪神退団を決意したことで今後は、現役続行への道を模索することになる。母校広陵の中井哲之監督(58)も昨オフ、「スタメンに名前がないとさみしいんだ」と、教え子の再起を願っていた。

 なにより活躍を願い、支えられる人たちがいる。応援してくれるファンがいる。まだ志半ば、道半ばだろう。新天地での再起を信じて待ちたい。(デイリースポーツ・田中政行)

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