【野球】イメージを覆した大阪桐蔭の練習風景

 2015年から2年間のアマチュア野球担当時代、大阪桐蔭の練習を見て驚きを隠せなかった。平成の時代に春夏連覇を2度達成するなど、計8度、大旗を手にした。平成時代の甲子園通算勝率は脅威の・840。高校野球界をけん引した一校であることは間違いない。

 きっと洗練された施設、最新の器具、当時流行していた近代的なトレーニングを取り入れているのかと思っていた。過去の記事ではウエートトレーニングを重視しているような記述もあったが…実際に見ると違った。大半を占めたのは西谷浩一監督いわく「温故知新の練習」だった。

 初めて練習を見学させてもらった冬場、ロッテのルーキー・福田光が主将を務めていたチームは練習場近くの神社に向かった。そこで100段近くある階段をものすごい勢いで駆け上がる。その階段は均一に舗装されているわけではなく、石を積み上げて作られていたためデコボコ。それでもバランスを一切、崩さないところに下半身の強さを感じる。

 15~20本を走り終えると、次は坂道へ移動。100メートルくらいの距離だろうか。ウサギ跳び、馬跳び、手押し車、おんぶ走など、“昭和の時代”をほうふつとさせるようなメニューを次々とこなしていく。静かな山の中でおよそ2時間、選手の悲鳴や荒い息づかいが響いた。

 西谷監督は選手のやる気、負けん気に火をつけるような言葉をかける。全メニューを終えると、不思議な達成感と一体感がチームに満ちていた。「器具を使ったトレーニングでは、あくまでも人工的なもの。それだけだったら“芯”ができない。ウサギ跳びイコール古い練習と思われがちだけど、学ぶことはたくさんある」と意図を説明した指揮官。その一方で誰も考えつかなかったようなメニューも実践していた。

 それはトランポリンの上に乗ってのロングティー。足場を不安定な状況にした上で、打球を飛ばすためにフルスイングを求める。体幹の力、下半身の力が無ければバットを振れないだけでなく、直径3メートルくらいの1人乗りトランポリンから落ちてしまう。

 「7、8年前に陸上選手がトランポリンを使って走ったらタイムが上がったのをテレビで見てやってみようと。実際にやったら一理あるなと。これをやってから土の上でやると、ガッと下半身がかむんですよ」と当時、明かしていた西谷監督。打撃練習のメニューを入れるのも、山のトレーニングや4キロ走を終えてからだった。

 「しんどくなってからバットを振り込むことで自然と下半身の使い方を覚える。体がパンパンの時こそ、下半身を使わないとボールは飛ばない」。金属バット特有とも言える上半身の力で遠心力を使って打球を飛ばすのではなく、体の力、下半身の力でボールを飛ばす。それを高校時代にたたき込まれるからこそ、プロで活躍できる選手が多い理由の一つとも言える。

 夏の大会前の6月にはグラウンドコート、マスクを着用した上で選手たちは練習していた。「夏の暑さに耐えるためです。炎天下で意識が飛ぶ瞬間がある。その状況でどうプレーするか」。そんな明確な意図を持って西谷監督は練習メニューを組み、工夫をこらしていた。

 一般的に言われるスカウティングの力だけでは、甲子園でここまでの結果を残すことはできない。約2年半の間でどんな練習を積み、成長期の選手たちを伸ばしていくにはどうすればいいか-。古きを残しつつ、常に新しいものを求めてアンテナを張る西谷監督。その姿勢が驚異的な数字に表れている。(デイリースポーツ・重松健三)

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