【野球】福留孝介と丸佳浩 夢をかなえるために断ったもの

 天賦の才を持った人間が努力を重ねる。努力で上り詰めた人間がさらに汗を流す。方向性が間違っていなければ、1+1は時に2以上の結果を導く。だが、限られた者にしか門をくぐることが許されないプロの世界でも、技術面における努力以外のひたむきさで、さらなる高みを極めた男がいる。

 まずは阪神の福留孝介。内野から外野にコンバートされた中日時代の2002年のこと。仁村薫フィジカルコーチにこう諭された。「夢をかなえたいのなら、なにか好きな物をやめてみろ」。鹿児島県生まれの薩摩隼人。チームでも指折りの酒豪は、大好きなお酒を断った。3冠王を狙っていた巨人・松井秀喜を振り切り、打率・343で初の首位打者を獲得した。

 「お酒が飲めないことをツラいとは思わなかった。自分で決めたことだからね。それより、自分のことを思っていろいろアドバイスをくれたり、考えたりしてくれた人たちのために何とか結果を残したい、そんな気持ちでしたね」と福留は述懐する。

 もうひとりは巨人・丸佳浩。プロ7年目を迎えた広島時代の14年に知人の紹介で会い、麻雀卓を囲んだ。記者とは18歳離れているのだが、全く物おじせず、どんな質問にも堂々と受け答えしていたことをよく覚えている。

 お互いに大好きな漫画があった。「むこうぶち 高レート裏麻雀列伝」。のちに実写版として俳優の袴田吉彦が主役の傀(かい)を演じた麻雀映画だ。卓上を含めて二人ともが主役の定番フレーズである「ご無礼、ロンです」を連呼するなど、球場で会った時には麻雀の話ばかりしていた。

 そんな彼が翌年、「僕、麻雀やめました」と報告してきた。最初は冗談だろ?と思っていたが、顔は真顔。理由を聞いた。「もっと野球がうまくなりたいんです」。あまりにもストレートすぎるアンサーに正直驚いた。「自分にできること、可能な限りの時間、野球に注いでみようかなって」。詳しくは聞かなかったが、なにか思い立つ、奮い立つことがあったのだろう。

 14年から4年連続全試合出場を果たし、17年にはシーズン171安打を放ち、打撃部門では自身初タイトルとなる最多安打を獲得するなど、16年からの広島球団史上初のリーグ3連覇に貢献。FA移籍初年度の19年には、巨人の5年ぶりとなるリーグ制覇の一翼を担った。

 二人が趣味嗜好を断って成し遂げた功績は称賛以外の何物でもない。数少ないプロと呼ばれる人種の中で、一流と称される人間はさらに細い穴をくぐり抜けるのだが、分岐点となった背景も実に興味深い。(デイリースポーツ・鈴木健一)

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