【野球】「育てる阪神」への変革 高校生5人指名に見える球団の覚悟

 涙があり、笑顔がある。悲喜こもごもだった10月17日。2019年度のドラフトにも、さまざまなドラマがあった。

 専門家だけではなく、ファンやネット上も含めて、12球団で最も評価が高かったのは、阪神の指名だったのではないか。

 あらためて記しておくと、ドラフト1位で創志学園・西純矢投手(18)の交渉権を獲得。同2位で井上広大外野手(18)=履正社=、同3位で及川雅貴投手(18)=横浜=、同4位で遠藤成内野手(18)=東海大相模=、同5位で藤田健斗捕手(18)=中京学院大中京=を指名した。しかも5人全員が、甲子園で活躍したスター選手であった。

 阪神が1位から5人連続で高校生を指名したのは、1966年度の第1次以来53年ぶり。同年のドラフトは9月(第1次)に「秋の国体に出場する高校生と社会人」、11月(第2次)に「大学生と秋の国体に出場する高校生」と2回に分けて開催。阪神は第1次の1~10位まで全て高校生を指名。1位は江夏豊(4球団競合の末、交渉権獲得)で、3~4位と6~9位の6人が、入団拒否している。

 「夢を追い掛けましょう」

 ドラフト会議の卓上、矢野燿大監督の言葉で、方向性は固まったという。谷本修球団本部長が「将来性をメインに。あまりにも10代が少ないので」と、チーム編成上の補強であったことを説明したが、それを差し引いても、ファンならずとも、夢のあるドラフトになった。

 昨年は「外れ、外れ」ではあったが、近本光司外野手を1位で獲得。通算159安打で、長嶋茂雄が保持していたセ・リーグの新人安打記録を更新。盗塁王のタイトルを獲得するなど活躍した。藤原恭大外野手(ロッテ)、辰己涼介外野手(楽天)と抽選に敗れたが、ブレなかった方針が奏功したとも言える。

 昨季まで、広島がリーグ3連覇を成し遂げたように、やはりドラフト戦略がチームの根幹を支える。阪神では、近年の“変化”をよく耳にするが、揚塩健治球団社長は「球団の方針としては、今回のドラフトから変わったわけじゃない」と強調する。

 「金本監督の時から、軸となる選手は自前でしっかりと育てて、そのタイミングで足らない戦力については、適宜、外国人、FAで補強していく。そういった考え方は変わっていません。同じ方針でやっています」

 金本知憲前監督が指揮を執った3年間は、高山俊外野手、大山悠輔内野手をドラフト1位で獲得。2017年度は清宮幸太郎内野手(日本ハム)を抽選で外し、馬場皐輔投手を獲得したが、同年の2位で獲得した高橋遥人投手が今季もローテを守るなど、確かな方針がチーム作りを支えている。そんな一環したドラフト方針の裏で、フロントの“改革”も進んでいた。

 育成テーマにしたのは「考える力の構築」だ。「少しでも若い選手の成長につながれば」。球団首脳が明かす。転機は2012年度のドラフトだった。実に4球団競合の末、藤浪晋太郎の獲得に成功した年だ。チームでは、2005年入団の鳥谷敬以降、10年以上も生え抜きのレギュラー選手がいなかった。

 考える力を養うために求めたのは、選手が自分自身と向き合う時間だ。ルーキーには入団前からノートを渡し、1日ごとに課題提出を義務づけた。これを球団首脳らで共有。屋外練習後は座学での講義も増えた。つい先日も、今季限りで現役を引退したランディ・メッセンジャー投手が、兵庫県西宮市の鳴尾浜にある寮施設で若手選手を中心に、成功の秘訣を語る特別講義を開いた。

 「育てる阪神」への変革。5人の高校生指名には、球団としての覚悟が見える。「逆に育成責任がズシッと両肩にのしかかってきたと思っています」とは谷本球団本部長。“答え”が出るのは3年後か、5年後か。1年でも早い台頭が2005年以来、遠ざかっている優勝には不可欠だろう。(デイリースポーツ・田中政行)

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