【競馬】WASJで大活躍 オジサン記者も魅了した女性騎手ミシェル

 モデル並の美貌に、オジサン記者たちが色めきだつのも無理はなかった。

 23日早朝の札幌競馬場。一人の女性騎手が小雨の降る薄暗い空気を一変させた。24、25日に札幌競馬場で行われた『2019ワールドオールスタージョッキーズ』に招待されたミカエル・ミシェル騎手だ。第3戦でコンビを組むスワーヴアラミスの調教に騎乗して、感触をチェック。後ろに束ねたブロンドの髪をヘルメットから揺らし、人馬一体のきれいなフォームでコースを駆け抜けていた。

 同じフランス人のクリストフ・ルメール騎手が、検量室や調整ルームなどを案内。そのあと、目下リーディング2位につけるトップジョッキーの通訳で取材が始まった。初めて日本を訪れたこともあり、到着してからの3日間は東京観光を満喫したという。「ハラジュク、シブヤ、オモテサンドウ、ギンザと行きました。一番良かったのはセンソウジ」。24歳の、かわいらしい女の子という感じだ。

 ミシェルの目に、日本の競馬はどんな風に映るのか-。「ファンが多いイメージです。インターネットで日本の競馬をよく見ています。競馬のニュースや結果も。チャンピオンホースは知っています。ディープインパクト、オルフェーヴル、アーモンドアイも知っています」。

 好きな日本のジョッキーは-。「ユタカ・タケ。フランスで一緒に乗ったことがあるので、良く知っています。そしてルメールさんね」。照れ笑いした“通訳係”のジョッキーは「彼女とは一緒に乗ったことはありません。彼女がデビューした時、ボクはもう日本にいたから」と補足した。

 14年に騎手デビューを果たしたが、その後は落馬負傷によって1年半も休養することになる。しかし、18年にはカーニュシュルメール競馬場の冬(1~2月)開催で、女性騎手初の1日3勝など大躍進。女性騎手、見習い騎手として初の開催リーディングに輝いた。日本でもおなじみのスミヨンや、ブドー騎手たちを抑えてのものだから、驚きだ。

 今年の『WASJ』に選ばれた女性騎手は、今やJRAの“顔”となった藤田菜七子騎手、ニュージーンランド・リーディング3回のリサ・オールプレス騎手に、ミシェルの3人。大会史上最多のことだ。

 ミシェルは藤田菜七子にも熱い視線を送る。「(総合優勝したスウェーデンの)ウィメンズジョッキーワールドCのレースや、(英国の)シャーガーCも見ました。世界中の女性ジョッキーを観察しています。ナナコは日本でも有名だし、すばらしい。乗り方もいいし、スムーズな競馬ができている」。

 先輩であるリサは憧れの存在だ。「リサも経験が多いし、自分もフランスで同じようなジョッキー人生を送りたい。他の国の女性騎手は大きなレースに乗っているが、フランスではあまりない。大きなレースに乗りたいし、自分も経験を積んで女性ジョッキーのレベルを上げたい」と力を込めた。

 フランスではいち早く、女性騎手の負担重量(17年は2キロ減、18年3月からは1・5キロ減)が見直された。この恩恵も大きかったのだろう。18年10月には60勝目を挙げて、フランス女性騎手年間勝利数記録を更新。この年は72勝を挙げ、リーディング12位という好成績を収めている。

 記者もJRA定例会見の場で、こう質問したことがある。「フランスでは女性騎手に減量の恩恵がある。JRAも見直す予定はないのか?注目され、活躍している女性騎手がいる今だからこそ、改定するべきでは…」と。今年の3月1日から、新たな負担重量制度が実施された。女性騎手は50勝以下は4キロ減、51勝~100勝は3キロ減、騎手免許取得後、5年以上または101勝以上の騎手でも一般競走に限り、永久的に2キロ減の恩恵を受けることになった。

 ミシェルの活躍が、日本の制度改正に一役買ったと言ってもいいだろう。そんな話を彼女に振ると、「フランスではオセアニアのように、女性騎手は乗れる機会に恵まれない。1・5キロでも(騎乗の)チャンスが増える。日本でも斤量の恩恵によって女性が活躍できるようになるのなら、いいこと。日本がフランスに習ってくれたのなら、とてもうれしいわ」と喜んだ。

 さて、注目された『WASJ』。初日が7番人気馬で5着、12番人気馬で4着とともに人気を上回り、優勝に望みをつないだ。そして翌日の第3戦で鮮やかに勝利した。そう、23日の朝に調教騎乗で感触を確かめた、3番人気のスワーヴアラミスだった。4角先頭から後続に2馬身差をつける完勝劇となった。この時点でポイント・トップへ。そして迎えた最終第4戦。14番人気馬に騎乗し、後方からまくる勝負手で優勝を狙う攻めた騎乗。残念ながら10着と敗れたが、存在感は十分に見せつけた。

 総合結果は3位タイ。世界のトップジョッキーたちを押しのけ、表彰台に立った。「世界で戦う他の女性たちの代表として、またフランス人の代表として、何かを残していければ。思った以上にいい経験ができました」。表彰式後には、ミシェルのサインを求める大勢のファンから「かわいい!」「きれい!」と声が飛び交った。初めて会った藤田菜七子も「とてもきれいで、本当にジョッキーなのかなと思ったぐらい。モデルじゃないのかなって」と驚いたほど。

 ただ、彼女はキュートなだけじゃない。腕も確かだ。男女が同じ舞台で争うスポーツは極めてまれ。斤量の恩恵がないシリーズ4鞍で、男性ジョッキーを相手にガチンコで張り合い、その実力を十分に示した。「この国に恋をしました」。名ゼリフを残し、日本の競馬ファンを、そしてオジサン記者も魅了した2日間だった。(デイリースポーツ・井上達也)

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