【野球】大谷が見せた思いやり 本塁上の交錯で負傷退場した捕手「素晴らしい行動」

 黒いブーツ型のギプス。左脚を引きずりながら歩く姿が痛々しかった。

 5月15日の試合前、ツインズのクラブハウス。前日の八回に本塁上でエンゼルスの大谷のスライディングを受け、負傷退場した捕手ガーバーが現れたのは報道陣のために設けられた取材時間が終わる3分前だった。

 記者会見でバルデリ監督が同捕手の負傷者リスト入りを発表したばかり。左足首の捻挫。当時の成績はチーム2位の打率・329、同トップの出塁率・418とOPS(出塁率+長打率)1・164。絶好調だった守備の要の戦線離脱はチームにとっても大きな痛手だった。

 記者が取材時間ぎりぎりまでガーバーをクラブハウスで待った理由があった。交錯した直後の2人のやり取りを知りたかったからだ。きわどいプレー。アウトを宣告された大谷はベース上で少しがっかりした表情を見せたが、すぐにそばで倒れているガーバーの元へ四つん這いで近寄り、相手の身体をいたわる仕草を見せたのだ。審判に抗議をしたり、自軍のベンチに向かってビデオ検証を求めたりしても不思議ではない状況。スライディングをした側とはいえ、受けた衝撃は相当なものだっただろう。にもかかわらず、大谷はまず相手を気遣ったのだ。

 しかし、その一方で選手の心情をおもんぱかる自分もいた。戦線離脱は本意ではないはず。今は話をする気にはなれないのではないか。しかも、残された時間はわずか。そばにいた球団広報のモースと話し合った結果、質問を託すことになった。クラブハウスの出入り口から2人の様子をうかがった。二言、三言、言葉を交わして戻ってきたモースは「何を言われたのか分からなかった、って」。しょうがない…。少しがっかりしていると、モースはこう続けた。

 「今から取材に応じると言ってます。自分の口から説明したい、と」

 記者席へ戻っていた地元メディアに召集がかかる。すでに取材時間は終わっていたため、ガーバーはクラブハウスの外に出てきて質問に応じた。しかも立ったままで。

 「少し痛みはある。今朝、MRI検査の結果を見ましたが、監督も安心していました。ひどくはなっていなかった」

 自身の足首の状態を報告した後、大谷と交錯した瞬間をこう振り返った。

 「最初は何も感じなかったんだけど、2、3秒後に僕が倒れ込んだことを見れば、足首がどれほどひどい状態だったか分かってくれたと思う。骨が折れた感覚はなかったので自力で歩けると思っていたんだけど、とてもそんなことはできなかった。ただ、深刻なけがではなかったのは幸いだった」

 「その時、オオタニは何て声を掛けたのですか?」

 そう聞いたのは、記者ではなく、左隣の米国人の記者だった。

 「分からなかった。というか、その時のやり取りは何も覚えてないんだ」とガーバー。「あとで映像を見てみると、彼が僕の方へ身を乗り出して肩をポンと叩いていた。あれは本当に素晴らしい行動だった。そんなことをする必要はまったくなかったのに。彼は正しい滑り込みをしていたし、するべきプレーをしていた。僕の足はベースをカバーしていたからね。あの状況では何の問題もなかった」

 くどいと思いながらも記者も質問をかぶせる。ガーバーは「彼はとても悪いことをしたと思っていたようだけど、そんなふうに思う必要はない。4、5年前に捕手をけがから守るために体当たりなどを禁ずるルールができた。あの場面は滑り込まないといけなかった。彼は正しくスライディングをしたと思う」と繰り返した。

 センターから本塁へのレーザービームで同点の走者を刺したバクストンと、身を挺して1点を守ったガーバー。2人が見せたパフォーマンスがツインズの本拠地を興奮の渦に巻き込んだ。

 囲み取材の輪が解けた後、人の心を動かした“プレー”が他にもあったことを知る。なぜガーバーが自分の言葉であのプレーを説明したいと言ったのかがよく分かった。勝ち敗けを争う戦場で敵である自分の身を案じてくれた大谷へのメッセージ。お互いを敬う心が見えた気がしてうれしくなった。

(デイリースポーツ・MLB担当・小林信行)

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