【芸能】宝塚歌劇「ポーの一族」 原作者も原作ファンも裏切らない舞台化の秘密

 少女漫画の枠を超越した歴史的な名作、萩尾望都氏の「ポーの一族」が宝塚歌劇花組で舞台化された。

 原作もの、特に絵がある漫画の映像化や舞台化では、往々にして愛読者のイメージを裏切るケースがある。

 まして「ポーの一族」は不老不死のバンパネラ一族サーガであるうえに主人公は美少年とあってハードルがたいへん高いと思われるが、1977年に「百億の昼と千億の夜」で萩尾作品に出会って以来の萩尾ファンである記者にとっても、今回の舞台化は、これ以上はできないのではないかと感じるほど、萩尾ワールドを現実化したものだった。

 成功の秘密は、脚本・演出の小池修一郎氏の作品への深い敬愛と理解にあると感じた。プログラムでは、小池氏が長年の萩尾ファン、萩尾氏が長年の宝塚ファンで2人に交流があり、舞台化は小池氏の悲願だったことが明かされている。

 通し稽古を観劇した萩尾氏の「まだ頭も心臓もバクバクしています。本当に素晴らしかった。(出演者の)皆さんも本当に作品から抜け出てきたみたいで、こんなのを見ていいんだろうかというぐらい本当にドキドキしました。美しかったです。本当にありがとうございました」という言葉は、そのまま記者の心情に重なった。萩尾氏が「こんなふうに作っていただいて、本当に小池先生に感謝いたします」と述べたのも無理はないとも思う。

 小池氏も、自身の手で舞台化が実現したことに「41年前の自分に何か伝えられるなら、いつか『ポーの一族』を宝塚で、素晴らしいキャストで上演することができるんだよというのを伝えてやりたい気がするくらいです。そういう意味で本当に感無量です」と、感激を隠さなかった。

 成功の要因といえる、不老不死の美少年という難役エドガーを見事に実体化させた明日海りおが「小池先生がすごく細かなところまで見え方とかを指示してくださる。すごく心強いというか、さらに役作りのヒントをもらっているように感じる」と明かしたところに、小池氏の原作への敬愛と理解の深さがかいま見える。

 小池氏も「(エドガーは)少年なんだけど実は何百年も生きているみたいな、中身は仙人のようなものだとも思う。時間を超越しているところを感じさせるのが、明日海の素晴らしい迫力」と、明日海を称賛した。

 原作のセリフや詩を数多く使っているのも、世界観の再現に大きな効果を上げている。

 小池氏は「基本的にセリフとか歌詞というのは極力、萩尾先生の素晴らしいボキャブラリーを中心に構成していまして。劇としてやる時に必要な補足はしていますけど極力、原典を生かしたいと思ってやっております。歌もそうです」と説明。萩尾氏は「恥ずかしいというかありがたいというか、自分が書いた言葉に音楽がついて、ちゃんと音符になって、歌ってくださるというのは感無量でございます」と喜んだ。

 また、小池氏は「今の若い人たちに通じると思うのは、行き場を失うというか、精神的にも、環境であったり、そういったところからのドロップアウトというか、適応していけない人というのは多いだろうと思う。そういったことは世界的な問題として語られていると思いますけど、原作の中に非常に深く込められていて、架空のファンタジーであると同時に、人間が普遍的に抱えている問題が、年月がたってなお顕在化しているということをちゃんとえぐっている」と、作品の普遍性を指摘。

 「やる上では、40年以上前の自分がどこに感動したのかってことをすごく考えながらやっていましたね。表向きのファンタジーで押しくるまれて終わらないで、もうちょっと深いところでお客さんに理屈ではなくて感覚的に分かっていただきたいというところをすごく考えながら」と、演出のねらいを明かした。

 萩尾氏は「気に入ったシーンはいっぱいあって。最後に窓からエドガーがアランをさらっていくシーンは、自分で(作品の構想を)思っている時から一番好きで、大切なシーンなんですけど、今回もそのシーンが現れた時には鳥肌が立つというか、すごくきれいなイメージが舞台上にできあがっていて。このシーンと、『願わくば』と言いながらエドガーを追い詰めているシーンを見るために、何回か通わないと」と、作品のとりこになっているようだった。

 「ポーの一族」は5日まで宝塚大劇場、16日から3月25日まで東京宝塚劇場で上演される。(デイリースポーツ・藤澤浩之)

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