【競馬】思い出す05年天覧競馬の馬上礼 今年の秋盾はどんなドラマが見られるか

 今週末は天皇賞・秋(29日・東京競馬場)が開催される。レース名を聞いて、私が真っ先に思い出すのは日本中央競馬史上初の天覧競馬となった05年。牝馬ヘヴンリーロマンスが超豪華メンバーを撃破し、14番人気の低評価を覆して勝利。レース後に現調教師の松永幹夫騎手が、静止した馬上でヘルメットを取り、天皇、皇后両陛下に深々と頭を下げる姿は、まるで映画のワンシーンのような美しさだった。

 「両陛下が拍手で迎えてくださってね。馬も普段はそんなにおとなしい方じゃないのに、あのときはなぜかすごくおとなしくて。不思議でした」と松永幹師は当時を懐かしむ。「師匠の山本(正司)先生の馬でしたしね。自厩舎の馬で初めて獲ったG1。こんなに幸せなことはなかったです」と今は亡き恩師への感謝とともに、脳裏に刻まれている。

 当日は、朝から落ち着かなかったという。大一番を前にした高揚感というより、昼に柴田善臣騎手、武豊騎手とともに、両陛下をお出迎えすることが決まっていたからだ。

 「正直、それまでは緊張でレースどころではなかったです。両陛下からは“おケガなどございませんか?”と言っていただいて…。本当に全てが違っていた感じでしたね」

 レースを迎える頃には、平静さを取り戻し、発馬に神経を集中させていた。「(前走の)札幌記念を勝ったときから出るようになっていたし、この日もいい枠(1枠1番)だったのでスタートだけは決めたいと思っていました。うまく出てくれました」。道中はインの8番手で折り合い、じっくりと脚を温存。直線に向いて内ラチ沿いから一気にスパートし、上がり3F32秒7の豪脚で差し切った。

 レース史上最多(05年当時)の8頭のG1馬が顔をそろえた一戦で「直線で5着には来ると思ったんですが、あれよあれよという間に全部かわして」と本人も驚く快勝劇。あまりの出来事にそのまま引き返そうとして、短期免許で来日中だったフランスのO・ペリエ騎手からウイニングランを促されたほどだ。

 「G1中のG1だから歓声もすごかった。リラックスして臨めたのも良かったんだと思います。今もこの時期になるとみなさんに言ってもらえる。僕自身のターニングポイントだったと思います」。

 “盟友”ヘヴンリーロマンスも既に17歳となった。今は米国で繁殖生活を送っている。「オーナーの先見の明もありますが、馬もあの時に勝っていなければ、アメリカに連れて行こうとなっていなかったかもしれませんね」としみじみと語る。母として、16年JBCクラシックを制したアウォーディー、16年UAEダービー覇者ラニなど、ダート戦線の重賞馬を輩出。調教師となった自らの厩舎を支えている。

 「子どもたちも活躍してくれて、アメリカやドバイまで連れて行ってもらいましたから。本当にいいお母さんですよ。あの馬も未勝利戦はダートで圧勝でした。ダートも相当走ったと思いますよ」

 競馬はブラッドスポーツと呼ばれるほど、血統と深い関わりを持つ。自らが騎手時代に主戦を務めた牝馬は、また新しい子とともに夢を運んでくれる。近々、父オーサムアゲインの1歳馬(牡馬)が、鳥取県の牧場・大山ヒルズに入ってくるのだと教えてくれた。トレーナーの顔で「楽しみ」と目尻を下げる姿が強く印象に残った。

 人馬ともに大きな分岐点となった05年の天皇賞・秋。これまでも、ウオッカとダイワスカーレットが鼻差の死闘を演じた08年など、“伝統の一戦”では数多くの名勝負が繰り広げれられてきた。先日、年内での現役引退と来春の種牡馬入りを発表したキタサンブラックを筆頭に、今年も05年と同じG1馬8頭を含む好メンバー。果たして、どんなドラマが待っているのだろうか。(デイリースポーツ・大西修平)

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