【野球】早実の「新鮮力」清宮だけじゃない…大胆コンバートに注目

 それにしても、いつものことながら驚かされる。

 清宮幸太郎で注目を集める早実の和泉実監督の大胆なコンバート策である。

 この夏の早実は、ずっと投手陣に不安をかかえていた。そこで5月28日、沖縄で行われた招待試合の未来工科戦で、元捕手で2年生の雪山幹太を入学以来、初めて投手として起用した。しかも、なんの前触れもなく、だ。そこでまずまずのリリーフを見せた雪山が、公式戦未経験ながら、この夏、早実の背番号「1」を背負うことになった。そして、初戦から3試合、雪山ひとりで投げ切っている。

それだけではない。その前の週では、関東大会の初戦で、こちらもなんの予告もなくサードの野村大樹をキャッチャーに起用した。

 つまり、本番のわずか一カ月半前に、バッテリーをそっくり入れ替えてしまったのだ。

 いずれも中学時代の本職だったポジションではあるものの、しばらく前から練習で準備していたわけでもなく、ぶっつけ本番だった。

 和泉はその意図をこう話す。

 「できちゃうやつは、できちゃうからね。それに、そうやっていきなり試した方が、そいつの本当の力量がわかりやすいんだよ。ダメだったら、やめればいいんだから」

 ちなみに雪山は1年夏の練習試合でも、ぶっつけ本番で、さっぱりだった右打者から左打者に転向させられ、今や、すっかり主力打者に成長した。

 2年前、甲子園でベスト4入りしたときのチームもそうだった。4番で「キャッチャーだけはないと思っていた」と振り返る4番で主将の加藤雅樹を2年春、まずは、その捕手にコンバート。さらには夏直前、ショートの山田淳平と、「サードしかやったことがなかった」という金子銀佑を入れ替えた。そして、そのコンバートが見事にはまった。

 和泉はいつも言う。

 「一度、怖さを覚えてしまうと、スポーツ選手としては退化しちゃうと思うんだよね。でも、みんな最初は野球が好きで、楽しくて仕方なかったわけでしょう。なるべく、その気持ちを殺さないようにしてやりたい。コンバートもそうで、最初は、力があれば、怖いもの知らずで、うまくいくことが多い。しばらく続けると難しさを知るようになって、その壁を超えたときに本物になるのかもしれない。でも、高校野球にその時間はない。だから、コンバートしたときの勢いを利用してやろうというのもある」

 確かに、エースが直前で故障し、たまたま抜擢した野手がはまって大躍進につながるというケースを何度か目撃したことがある。

 スポーツ心理学の世界ではこんな言葉もある。野球で言えばバット、ゴルフで言えばパットなどの道具を変えて、一時的に調子を取り戻したと錯覚することを「ハネムーン期間」と呼ぶ。しかし、時間が経ち新鮮味が薄れると、その効果は消えてしまう。

 早実は雪山という新戦力ならぬ「新鮮力」で、この夏の山を、一気に乗り越えようとしている。(ノンフィクションライター・中村計)

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