【野球】G戦士は今…経験を糧に未来のスターを発掘 ヤクルトスカウトに転身した好打者

 成功、挫折-。自らの経験を糧に次世代へとバトンをつなぐ。スカウトとは、そういう仕事だろうか。元巨人、ヤクルトで活躍した斉藤宜之氏(41)。現在はヤクルトのスカウトとして、金の卵たちに熱い視線を送る。

 「選手を見るときは試合での結果だけでなく、練習態度なども見ています」。それが斉藤氏の基本方針。そのために「時にはチームの監督さんにも内緒で練習へ足を運びますよ」と話す。グラウンドから離れたところまで車で向かい、遠くから双眼鏡などで練習を見ることもあるという。

 プロのスカウトが視察に来れば、自然と練習に力が入る。だが、本当に見たいのは選手の本当の姿だからだ。

 「確信を持ってスカウト会議で推すためにです。練習はうそをつかないので」。そこには現役時代の「後悔」が大きく影響している。

 横浜高を経て、94年のドラフト4位で巨人へ入団。松井秀喜、高橋由伸、清水隆行と自分と同じ左打ちの強打者が居並ぶ当時の巨人においても、将来を嘱望された選手だった。

 「その中で何とか試合に出たい、負けたくないという気持ちでやっていた」。思いが実を結ぶのはプロ8年目の02年。故障者が多いチーム事情から一塁と外野の兼任で定着して109試合に出場。同年の日本シリーズ第4戦では本塁打も放つなど日本一に貢献した。

 翌03年も出場機会を増やしたが、その後は度重なる故障に悩む。「気分の浮き沈みも激しかった。気持ちを持続できず、練習にムラも出てしまったんです」。つかみかけたレギュラーの座は、その手からこぼれ落ちた。

 素質だけに頼らず、壁を打破していく力。練習を持続し、どんな状況下でも同じパフォーマンスを出す力。自身の経験から、斉藤氏はそれを重要視する。

 もう1つ、現在への原動力が08年に移籍したヤクルトでの現役最後の2年間。「ヤクルトはコーチと選手、選手でも投手と野手の距離感が近い。アットホームなチーム。練習などでも監督やコーチが声を掛けてくれて、いろいろと勉強になりましたね」と振り返る。

 思うような活躍はできず、09年オフに戦力外通告を受けて現役引退。それでも「ヤクルトでは子供の頃のように、純粋に野球が楽しいという気持ちを再確認できた」という。

 プロの厳しさ、野球の楽しさ-。すべてが自らの「(野球の)幅を広げてくれた」と斉藤氏は感謝する。

 10年からヤクルトのスカウトとなり“ライアン”小川らを担当。そこにも斉藤氏の信念が息づく。小川は体が小さく周囲の評価も高くはなかったが「練習が終わっても、外野で1人で黙々と走り込みをしていた。彼の姿に(プロで活躍する)確信を得た。ここで推さないと後悔すると思ったんです」。12年のドラフト2位で獲得した右腕は、今やチームの先発の柱となった。

 今の夢はヤクルトの黄金時代を築くこと。「それが夢です。少しでも良い選手を獲りたいという気持ちは、常に持っています」と話した。獲得した選手の親や関係者からは感謝の言葉も受ける。そのたびに「選手の人生を、自分が左右しているのだと感じる」と気を引き締める。だからこそ妥協はできない。

 時に厳しく、時に優しく。次代のスター候補を探して奔走する日々を送っている。(デイリースポーツ・中田康博)

  ◇  ◇

 斉藤宜之(さいとう・たかゆき) 1976年6月10日生まれの41歳。神奈川県藤沢市出身。横浜高を経て94年ドラフト4位で巨人入団。02年には1軍に定着して109試合に出場し、打率・310、5本塁打を記録。同年の日本シリーズでは優秀選手賞を獲得。07年オフに戦力外通告を受け、トライアウトを経てヤクルトへ移籍。現役引退後の10年からヤクルトのスカウトを務める。15年から2年間の2軍打撃コーチを経て、17年にスカウトへ復帰した。

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