“秀才”大学生投手出現の背景とは

 今春の大学野球では、東京六大学リーグの東大の連敗記録が大きな注目を浴びた。10年秋から続くトンネルは、76連敗まで伸びてシーズンを終えた。入学に際してスポーツ推薦制度がない国立大は、全体的に選手の実力が劣るのは否めない。

 “文武両道”は実現しないのか…。いや、そんなことはない。中には飛び抜けた逸材もいる。関西学生リーグで12年ぶりに勝ち点を挙げた京大。3勝したエース右腕の田中英祐投手(4年・白陵)は、最速148キロを誇り、昨秋はリーグのベストナインも獲得した。ドラフト上位候補にも名を連ねる。

 愛知大学リーグ2部には、名古屋大の七原優介投手(4年・知立東)がいる。最速152キロの本格派右腕。進路は社会人野球とのことだが、プロ志望届を出せば上位指名間違いなしといわれている。

 また、12年ドラフト1位で中日に入団した福谷浩司投手も、出身校は東京六大学リーグ優勝33回を誇る慶大だが、理工学部で電子工学を専攻。学部の優秀者に与えられる「藤原賞」を受賞している。

 プロも狙えるレベルで、かつ勉学も優秀な大学生投手は、確かに増えているように感じる。考えられる理由の一つは、環境の変化だろう。大学野球全体でいえば、本来の形である学業優先の色がより濃くなってきている。首都大学1部リーグでは、平日の授業を考慮し、従来の2戦先勝の勝ち点制を変更。今春から土、日に2回戦のみを行い、勝率で順位を決定する方式となった。

 昨年まで阪神で25年間スカウトを務めた菊地敏幸氏は「私学の強豪でも、全体練習の時間は以前に比べれば少なくなっている」と指摘する。その上で「練習の仕方、食事の面、トレーニング自体の質も、昔とは違ってきている」と、自主練習の割合が増え、選手個人の取り組みが、より反映されやすい側面を挙げた。優れた素質の持ち主なら、国立大のようなチームでも、花を咲かせることができる土壌になってきたというわけだ。

 また、投手は野手に比べて、自分次第でレベルアップを図れる。「投手の練習は、やっぱりランニングとピッチングに集約される。比較的、限られた時間でできる」と菊地氏。対照的に野手は「練習のメニューが多く、総合力が求められる」だけに、強豪校以外でプロレベルまで成長するのは「まだ難しい環境」という。

 京大や名古屋大に現れる好投手。現役時代は県立校の富士(静岡)で夏の甲子園に出場、横浜国立大でも2シーズンでチーム全イニング登板するエースとして活躍した、湘南(神奈川)の川村靖監督は「登板機会が多いというのはあると思う」と、理由を推察した。

 弱いチームに入った方が、下級生の頃から公式戦で投げる機会に恵まれるのは間違いない。その経験から見つけた課題をフィードバックして、成長につなげるサイクルが生まれる。効率的に「実践→結果→考察→実践」という取り組みができている可能性はある。

 社会情勢も、多様化が進んでいる。進学先を「野球か勉強か」で決めるのではなく「野球も勉強もできる」基準で決める選手は、多くなっているのではないだろうか。

 東大出身のプロ野球選手は過去5人いるが、京大出身はまだいない。田中が今秋のドラフトでその第1号となるのか。将来の目標はプロ野球選手でも、東大や京大に進んで野球も勉強も究めようと挑戦する。そんな選手が増えてくれば面白い。

(デイリースポーツ・藤田昌央)

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