プロ野球審判員の苦労と本音とは…

 注目を浴びるのはミスをした時だけ。ヤジや罵声を浴びるのは日常茶飯事だ。“誤審”がスポーツ紙の1面を飾ることもあるが、反響の大きさを見ても分かるように、プロ野球界における審判員の役割と責任は大きい。だが、その苦労や本音を聞く機会はほとんどない。

 「ファンに囲まれて怖い思いをしたこともありますし、困ったのは家族に影響が及んだ時ですね。子どもが学校で『お前のお父さん、昨日ミスしただろ』といじめられたこともありました」。こう語るのはプロ野球の審判員として2902試合に出場し、昨年まで審判長を務めていた井野修氏(現・野球規則委員)だ。

 誤解を生むことも多い職業だ。監督や選手から抗議を受けた際、毅然(きぜん)とした態度で対応する必要があるが、その姿が反感を買うこともある。井野さんは「おかしな判定をした時、当然、自分自身がよく分かっています。でも『今のは取り消し』とはできないし、謝る訳にもいかない。うそをついて突っぱねなければいけないのは、本当につらい部分なんです」と、胸の内を明かす。

 現在、日本野球機構(NPB)と契約する審判員は57人。その境遇は、決して恵まれたものではない。契約は1年ごとで将来は約束されず、ボーナスも退職金も出ない。1軍の試合でミスをすれば、2軍降格になる可能性は常にある。技術の向上が見込めず、3~4年に1人、“クビ”になる審判員もいる。

 給与は研修審判員で300万円未満、2軍の審判員は400万円未満。1軍の試合に出始めれば500万~600万円に昇給し、レギュラーをつかむことができれば、900~1000万円になるという。

 過去には「割に合わない。やってられない」と、自ら辞めたものもいる。だが、華やかな舞台でジャッジを下す姿にあこがれる若者も少なくない。昨年12月に開催された審判員を養成する「アンパイア・スクール」には160人の応募があった。実際には書類選考を通過した52人がスクールに参加。井野氏は「今は個性的なジェスチャーをする審判もいるけど、そういう姿が格好良く見えるのかな。こちらが思っている以上に『審判になりたい』と言う若者がいて、うれしかったですね」と話す。

 プロ野球のキャンプインまで2週間を切った。選手の自主トレが熱を帯びる一方で、審判員も開幕へ向けて本格的な準備を始める。1月下旬に審判員の合同トレーニングを行い、2月は各球団のキャンプ地に同行。ブルペンなどで判定の感覚を養い、体力強化にも取り組む。

 「審判の技術を磨くには経験を積むことが一番ですから。1年間を乗り切る体力を身につけることも重要です」と井野氏。ひとつでもミスを少なく、球界を盛り上げることが使命。選手同様、プロとして、レベルアップに励む。(デイリースポーツ・佐藤 啓)

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