敵も審判も爆笑させる「槙野ダンス」
大きく口を開けて笑っている。そうかと思えば、急にクルッと回り出す。まるで社交ダンスのように。18日のJ1・浦和対横浜Mでの1コマである。
前半、コーナーキックのチャンスを得た浦和。セットプレーでキッカーがボールを蹴る前に、浦和DF槙野智章が転倒した。横浜M・栗原と交錯。審判がプレーを止めた。
次の瞬間、槙野はその経緯を面白おかしく再現し始めた。“カズダンス”ならぬ“槙野ダンス”。審判も栗原も、思わず大笑い。ファインダーをのぞいていたこちらも笑いが止まらなくなった。敵、味方関係なく、ピッチ上に咲いた笑顔の花。ほほえましい光景だった。
浦和サポーターにとっては思い出したくもないだろうが、昨季、筆者は最終戦となった名古屋戦にも取材に出向いた。前半こそヘッドで先制点を奪い幸先良かったが、後半は終始いら立っているように見受けられた槙野。優勝のかかった大事な一戦だったとはいえ、名古屋・牟田と口論を繰り広げるなど、プレーもそれ以外にも“らしさ”がなかった。どこか重苦しいムードに包まれていたチームは敗れ、まさかのV逸。サポーターの怒号は今も鮮明に覚えている。
ところがこの日は横浜Mディフェンスをかきわけ攻め込む場面も多く、勝ち越しゴールを決めた梅崎には真っ先に駆け寄って祝福。イレブンを率先して盛り立て、前半のリードを守り抜いた。チームは単独首位に。試合後は同点ゴールのヒーロー・武藤雄樹について、FC東京の日本代表・武藤嘉紀を引き合いに出し「向こうは点を取っても負けたけど、こっちの武藤は取って勝って首位。取り上げてやってください」と話すなど、絶好調かつ絶“口”調だ。
昨季V逸の瞬間、槙野はピッチに突っ伏したままなかなか起き上がることができなかった。あの悔しさは忘れていないはずだ。槙野の“調子”は勝敗に直結する。今度は何を見せてくれるだろう-。9年ぶりの年間Vへ、プレー自体はもちろんのこと、ムードメーカーとしての槙野の動きにも注目していきたい。
(写真と文=デイリースポーツ・北野将市)