プロ野球界に見る「日米摩擦」(1)

 かつて新聞記事の中で、「日米摩擦」を巡る記事が頻繁に出てきたことがある。プロ野球界でもあまり記事にならないが、「日米摩擦」は起こっていた。

 何が両者をそうさせるのか、などと考えるとややこしくなるが、要するにアメリカ人は、「野球はこうしてやるもの」と考え、日本人もまたそう考えるなら、どこかで行き違いや誤解が生まれる。

 だが、日本はグラウンドやユニホーム、そしてルールもアメリカを見習い、両者はまったく同じレールを走っている。

 とすれば、アメリカではこうかもしれないが、日本の場合はこうするという、いわば『日本という胃袋の中で消火した野球』を彼らに理解してもらう他はない。

 その日本流の中には、どう考えても不合理であると彼らが納得しにくいこともあるのだろう。

 この摩擦ばかりは、あらゆる面で日本のプロ野球界がアメリカと肩を並べるほどに成長しない限り避けることは不可能である。

 となれば、できるかぎりアメリカで身につけた彼の野球を生かしてやる他にない。

 その方法の第一は、「意思の疎通」だ。繰り返すようだが、絶えず彼らの行動や気持ちの持ち方に気を配り、はっきりした言葉によって双方が納得し合う努力をすべきだ。

 日本の監督やコーチがすべて英語を話せるなら別だが、それが無理なら通訳を通じて常に対話を怠らないことが大切なのだ。

 面倒なことだが、同じ野球をやっているんだ、それくらいは言わなくてもわかるだろうなどと思ってはならない。

 それも指導者の仕事と思い、正面から取り組めば、必ずやプラスになるはずだ。長い間この仕事をやりながら、何度となく思ったものだ。

 最近はしっかりやっている監督やコーチが次第に増えてきたが、日常的な仕事として定着するには、球団と首脳陣、現場の幹部たちの意識改革が必要だと思う。

 西武ライオンズの情報に詳しい友人からかつて次のような話を聞いた。

 トレンティーノ(1993年在籍)という外国人選手が黒江透修コーチと会った際、「おはようございます」と、はっきりした日本語で言いながら頭を下げた。

 友人はそれを見て日本流のあいさつができるようになったのだと思っていたら、その裏にはこんなエピソードが隠されていた。

 トレンティーノが入団して黒江コーチと顔を合わせたとき、「オース」と言いながら通り過ぎようとした。

 「ちょっと待て」と、黒江コーチはトレンティーノをそばに呼び、「いまのはいいあいさつとはいえない。選手同士のようにごく親しい仲間ならいいが、監督やコーチに対しては、キチンとしたあいさつをするのが日本の習慣だ」

 さらに続けたそうだ。「日本のコーチはそれぞれの仕事を監督にまかされて、教えたり指示したりする。だから選手も監督に対すると同じようにチャンとしたあいさつをする。日本の会社もそうだが、日本人はそうやって集団の中の人間関係を安定させてきた。これからお前さんもいろいろな日本人と会うだろう。そのことを覚えておいたほうがいい。だから注意したんだ」

 じっくり話した。トレンティーノは理解したようで、それからは「おはようございます」と言うようになったという。

 これは正解だと思った。トレンティーノは守備にやや不安があった選手だが、そのあたりも西武ライオンズはよく心得ていた。

 千葉マリン・スタジアムで千葉ロッテと対戦したとき、西武ライオンズはこのトレンティーノをスタメンから外した。

 風のやや強い日で、それでなくても風でボールが大きく流れる球場だけに、まず守りを固めるという方針によってだった。

 西武ライオンズの森監督(当時)と黒江コーチは試合前にトレンティーノを呼んで、こういう状況でスタメンから外すから了解してくれと説明し、トレンティーノも納得したという。

 この話も友人から聞かされた。もちろん、どのチームでもそれぞれやっていると思うが、よほどクセの悪い選手でもない限り、たいていの場合彼らはこれで納得する。

 日本の野球は勝ちにこだわるとよくいわれるが、大リーグなどはこっちがびっくりするくらい、勝つということへの執念が強い。

 勝つためにこうするのだと説明すれば、全く的外れの采配でもない限り、彼らはなんの抵抗感もなく受け入れてくれる。

 監督やコーチが、「オレはおまえらより偉いんだ」というような気持ちで接すると、彼らには日本人のような帰属意識とか集団の上下関係の体験が薄いから当然反発する。

 昔、巨人の監督を務めた水原茂さん(慶応大時代も巨人に入ってからもスターだった)が中日ドラゴンズの監督になって2年目、昭和45年(1970年)にバビエリという外野手が入った。

 たまたま、ある試合で中日が守りにつこうとしたとき、すでに定位置まで行っていたバビエリを、突然水原監督が呼んで交代を告げた。

 怒ったバビエリは水原さんにグラブを投げつけて、事件となった。水原監督がなぜそんな突然の交代をやったのかは知らない。

 あるいはこの日の相手のバッティングを考え、急に不安を覚えての交代かもしれない。

 けれども、これは外国人選手でなくても怒る。観衆の前で定位置についたとたん、「おまえは交代」と言われれば、怒って当然だろう。

 このバビエリは1年限りで辞めていったが、プライドを踏みにじってしまった例と言える。

 大リーグ通であり、大人の選手の扱いでは文句なしと言われた水原さんですら、こういうことがあるのかと驚いたものだ。(デイリースポーツMLB解説委員・牛込惟浩)

  ◇  ◇

 牛込惟浩(うしごめ・ただひろ)1936年5月26日生まれ、79歳。東京都出身。早稲田大学を経て64年、大洋ホエールズに入団。渉外担当としてボイヤー、シピン、ポンセ、ローズなど日本球界で大活躍した助っ人たちを次々と獲得し、その確かな眼力でメジャー球界から「タッド」の愛称で親しまれた。2000年に横浜ベイスターズを退団。現在はデイリースポーツMLB解説委員。

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