「侍タイムスリッパー」監督、京都・世界遺産で初のバトル劇?「物語にのめり込んでくれたら」
京都の春の夜、世界遺産で新感覚エンタメが開花する──。「元離宮二条城」(京都市中京区)を舞台に、3月19日より開催中の夜間特別イベント『二条城 2026 SAKURA NIGHTS』。
ライトアップされた夜の城内で、夜間観覧をはじめとする3コンテンツの体験が提供されるが、なかでも注目を集めているのが『城劇』と銘打った野外演劇だ。企画・脚本・演出を手掛けるのは、第48回日本アカデミー賞の最優秀作品賞に輝いた、映画『侍タイムスリッパー』の安田淳一監督である。
大規模LEDディスプレイに映る圧倒的スケールのデジタル映像、そして役者による生の演技が融合するという、まるでエンタメ異種格闘技のような本公演『陰陽師瑞希の時空戦記 寛永行幸を救え!』。
最新技術とコラボレーションしながらも「人を感動させるのは、肉体から放たれるエネルギー」と断言する安田監督と、その期待に応える「東宝シンデレラ」オーディションでミュージカル賞を受賞した、主演の山戸穂乃葉に話を聞いた。
■ エンタメキーワードが全盛り!の「城劇」──今回の城劇、監督の発言やストーリーから拾ったキーワードを羅列してみるとこうなります。アクション、ラブロマンス、日舞と歌とダンス、ヒーローショーにアイドルコンサート、まだまだ続いて、女子高生陰陽師、忍者、侍、チャンバラ、そしてタイムスリップ!……テンコ盛りすぎませんか?
安田淳一監督(以下、安田):上演時間が35分間のお芝居なんですけどね。さらに今年は「寛永行幸400周年」にちなんでおこなわれる特別企画。寛永行幸のこともストーリーに盛り込む必要がある。35分あれば「寛永行幸とは……」の説明はできるんですんですが、説明的な部分は最小限に留めて、どちらかといえばバトル中心、感情的に盛り上げていくようなストーリーラインにしています。
※寛永行幸…1926年に徳川将軍が天皇を二条城に招き、5日間に渡ってもてなした江戸時代最大級のイベント
──伝説の陰陽師・安倍晴明の血を引く女子高生が400年前の京都にタイムスリップして、悪と戦う物語です。
安田:フィナーレの2分30秒間は歌いながら踊るんですけど、そのうちの20秒は穂乃葉ちゃんがHIP HOPダンスをガチで踊ります。
──主役の「女子高生陰陽師」が「HIP HOPダンスを踊る」って、またキーワードが足されました!
山戸穂乃葉(以下、山戸):ちょっと踊らせていただきます(笑)。
──35分間の演劇ながら、さらに監督は反戦のメッセージも込められているんですよね。
安田:今またイランへの攻撃がはじまった。反戦のメッセージはことさら強調したいと思うようになりました。
──『二条城 2026 SAKURA NIGHTS』は没入体験をテーマにして、プロジェクションマッピング、国宝・二の丸御殿の夜間特別観覧、そして安田監督が手掛ける「城劇」があるわけですが、「城劇」は宣伝文句としては「イマーシブシアター」という言葉を用いていますよね。
安田:僕自身としてはイマーシブというのはそこまで意識はしてないです。テクニカル面で関わってる人たちがイマーシブという言葉を引用してくれてはるんやけども、お客さんが物語にのめり込んでくれたらそれが没入体験かな、と。没入演出はあるんですよ。
LEDディスプレイも幅が25メートルほどあるから画面の中に入っていくような感覚はあるし、スピーカーもお客さんを囲むような配置になっていて、サラウンドによる没入感もある。
でも、イマーシブの鍵を握っているのが「役者の熱演」というね。ここが一周まわって面白いところで。イマーシブというものの定義がないから、城劇が見せるのはアナログな没入感。熱演によって引き込みます。
■ 野外公演は「演技スキルより熱演が感動を生む」──主演の山戸さんは以前に舞台『魔女の宅急便』のキキ役を演じられていますよね。前回が魔女の少女で、今回は女子高生陰陽師……。
山戸:特殊能力持ちがち……?
──山戸さんはオーディションから主演に大抜擢されましたが、安田監督の決め手となったのはなんでしょう?
安田:僕はオーラという表現はあまりしませんけど、オーディション会場に入ってきた時、ひとりだけパッと目を引く魅力があった。セリフを喋ってもらっても、ひとりだけ声の響き方が違う。さすが東宝シンデレラ!
──芝居小屋ではなく野外公演です。野外でお芝居されることについて、お2人はどのような化学反応が起きると期待しますか。
山戸:ホールは舞台上からは客席が真っ暗でほぼ見えないんですが、今回のお芝居は外、しかも客席と舞台の距離も近い。顔が見えるという緊張感があるのかなって。同時にお客さんの反応が楽しみです!
安田:野外では、役者が持つ「気」が外に逃げていく感じがする。ちょっと観念的な言い方やけど、ホールでするよりもさらに熱を込めた芝居をしないとあかん。役者さん大変やろうなぁと思います。ただ、城劇に集まってくれた若い役者さんが、僕に再発見させてくれたことがあるんです。
演技のスキルそのものよりも熱演するということ、それがお客さんの心を持っていくんじゃないかと。熱いお芝居、肉体性が、一番にお客さんを感動させるんやな、と「城劇」を通して感じています。ひとりが熱演すると、その熱は他の役者にも伝播するから。野外で散らばってしまうはずの「気」が、ぎゅっと濃縮されたものになる。
──山戸さんも稽古中に「熱演の伝播」を感じましたか?
山戸:九条義景役の西村優希さんが稽古中もすごい熱演されていて「自分も続かないと」と、みんな引っ張られました。西村さん、稽古でも真夏みたいに汗だくで。
安田:1日2回公演やから、西村君の衣装ビッチャビチャになるんちゃうかな。でもね、その姿を見ると感動できます。稽古の時も役者の熱演に泣きそうになりましたもん。本番では、客席の最後列と舞台の距離は7メートルぐらいしか離れてません。この狭さが、伝える力を発揮する気がします。
■ 世界遺産が舞台でも、安田流D.I.Y精神は健在──世界遺産の二条城で上演するスペクタクル演劇! という印象なのですが、安田監督のSNSをのぞき見すると、劇中登場する小道具をお手製していることがわかって。例えば、Amazonで購入したアイテムで「陰陽師の守刀(まもりがたな)」を完成させたり…。
安田:今回ね、最初にいただいたオファーが「プロジェクションマッピングの演出をしませんか?」というものだったけれど、生成AIですぐ動画が出来てしまうこの時代、肉体性というものがプレミアム感になると思うから「エンタメ演劇をしませんか」と僕から提案して。
承諾してもらえたのでプロジェクションマッピングの予算がそのままスライドするかな、と思ったら、プロジェクションマッピングはまた別チームでやると。…ということで、「城劇」の予算がない状況(笑)。だから手作業でやるしかないわけです。
──ずっと自主制作で映画を撮られてきた監督だからこそ、そのD.I.Y精神は「こだわり」かと思っていました。
安田:あぁ、それもありますね。自分たちでできることはやったらえぇという考えですね。自分でやったほうが早いし、コストダウンになるから。キービジュアルの写真も僕が撮ってます。デザインのラフ画も描きました。
──ポスター撮影では、米農家でもある安田監督が愛用されている農業用ブロワー(強力な風を送る農業機械)が大活躍したようで。これもSNSでのぞき見しました。
安田:(畑がある)京都の城陽市から持ち出したものですね。アレは木の葉とかをピャーッと吹き飛ばすもの。木の葉じゃなくて穂乃葉ちゃんに風を送ったわけですけど。僕が穂乃葉ちゃんの写真を撮ると、実年齢より年上に映ってしまうんですよね…。今回のポスター写真もスナックのママ感があるというか、25歳とか26歳ぐらいに見えてしまって。
山戸:それ、ずっと言ってますよね。私はそうは思わないんですけど(笑)。
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現在も生まれ育った京都・城陽市に居住する安田淳一監督。京都を拠点に活動する氏が、「城劇」のゴール地点に定めるのは、京都エンタメ文化の発展だ。「京都にはいい劇団がいっぱいいる。城劇が当たって、“夜に楽しめるエンタメ演劇”というような市場が立ち上がれば面白いんじゃないか。それが願望ですね」と安田監督。
新しいエンタメカルチャーの幕開けも期待できる城劇『陰陽師瑞希の時空戦記 寛永行幸を救え!』は、3月19日から4月19日にわたって開催される『二条城 2026 SAKURA NIGHTS』内で上演(期間中の20日間のみの公演、1日2回公演)。期間は~4月19日まで。料金は一般3400円~、ほか詳細は公式サイトにて。
取材・文/廣田彩香 写真/Lmaga.jp編集部
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